2016/09/01

認知症は診療の邪魔?

認知症+褥瘡で入院、そして胃瘻造設となった症例


Fさん(80歳後半)は糖尿病です。褥瘡治療のため3ヶ月間の入院を経て経口摂取ができなくなり、入院中に胃瘻造設となりました。糖尿病があると、骨折では骨がつながりにくい、傷は塞がりにくいくらいのことは知っていますが、褥瘡治療の入院で胃瘻とは・・・
もしかしたら、認知症とドネペジルに起因する嚥下障害なのでは? 不審に思ったので解析してみました。

生活状況・症状
・歩き方は、ややワイドベースで足が上がらず摺り足歩行の前傾姿勢。転倒防止のため両手引き歩行。
 (正常圧水頭症(NPH)の症状かもしれない)
・甘い物好きで、面会時には必ずお菓子類を食べていた。
 (元々甘いモノ好きだったようです。家族が糖尿病の親に持ってくること自体が不適切)
・トイレに頻繁に行きたがる。すぐに対応できず、待つように言うと逆上して屁理屈を言う。
 (極めて理路整然としたことを言う。アルツハイマー型認知症(ATD)の言い分とは考えにくい)
・失禁なし。
 (前頭葉はまだそれほど萎縮していないのか)
・自分の思うようにならないと怒り出す。
 (ピックぽくもあるけれど、ただの癇癪か)
・時々、辻褄の合わないことを言う、妄想あり。
 (次第に頻度は増していたが、対応に困る程でもない)
・どことなく、唖然、呆然とした表情。
 (レビーの意識障害にも思える)
・会話は普通に成立する。(語義失語なし、非流暢性なし)
 (どこにでも居るようなおばあちゃんと同じ)
・近時記憶は正常範囲内。著明な記憶障害があるとは思えない。
 (「ご飯食べましたか?」と尋ねると、いつも正解を答える)
・ドネペジル(アリセプト)5mgを服用している。
 (どこの医者が出したか!)

以上のような「状況証拠」から推定されること
・正常圧水頭症(NPH)による認知症(治療可能な認知症のひとつ) 
 但し、失禁がないので、NPHの診断基準を満たさない。
・前頭側頭型認知症(FTD)
・レビー小体型認知症(DLB)
・レビー・ピックコンプレックス(LPC)

胃瘻造設の前にするべきだったこと
DLBまたはLPCの可能性は否定できないと思われます。ドネペジル(アリセプト)の服用を中止して、嚥下機能の回復を目的とするリハビリを実施する。何故なら、嚥下機能の障害はDLBに生じることがあります。だから、DLBにドネペジルが入ると嚥下障害はさらに酷くなることがあります。

歳を取って多重する疾患を抱えた高齢者で、なおかつ認知症が加わるともう終わりなのでしょうか。チーム医療はただの絵空事となります。医師にとって内科は基本中の基本であるように、その中に認知症も基本として組み入れないと高齢者医療は太刀打ちできそうもないです。

そもそも、この症例では入院時に糖尿病治療薬や抗認知症薬などが持ち込まれていました。加えて、褥瘡治療のため薬が追加されたのです。他の医療機関、あるいは主治医の専門外の薬剤については、医師と言えどもなかなか手を出せない(服用をやめさせること)ようです。

また、入院前、ドネペジルが処方されていたことから、ATDと診断されていたのでしょう。この時、歩き方からNPHを疑ってみなかったのかということも疑問です。(初診時よりずっと後になって、NPHを疑わせる歩行が生じたのか?)






「医療連携」ならぬ、「胃瘻連携」が後を絶たないです。・・・・・あの病院!
転ばないように介助してきたこと、褥瘡の原因となる低栄養状態にならないように栄養管理してきたこと、褥瘡が悪化しないように定期的に体位交換してきたこと・・・・、全部水の泡。
「褥瘡を生じさせるのは施設の恥!」と当該施設は考えているらしく、その予防には神経を使っています。それはそれで結構なことですが、認知症を悪化させないことにはまったくの無頓着というのは、今の時代にはいかがなことかと思う。

退院して、幸いにも施設に戻って来ることができました。臥床しているFさんに声をかけてみましたが、目を閉じたままで反応がありません。何度か声をかけると目を開けましたが、虚ろな目で呆然としており意識障害があるようでした。両方の腕を曲げ伸ばししてみると、鉛管様筋固宿がありました。翌日にも同じことを試みましたが、同じでした。DLBである可能性が高い上、寝たきりの全介助が必要、更に胃瘻もあります。少なくともドネペジルの服用は中止すべきでしょう。

コウノメソッドではこういう症例に、グルタチオン、シチコリン、フェルガード、レミニール(あるいはリバスタッチ)と有用な治療方法が示されているのですが、当該施設にはそういう選択肢はありません。「医療連携」の名の下に、何の疑問を持つこともなく、介護負担だけを請け負ってしまったことは残念です。

2014年、DLBへのドネペジル適用が認可されました。ここで示したような医療過誤と言っても過言ではない事例は増えてくるだろうと危惧されていました。