2016/08/01

介護現場でみるPSPSとCBS

進行性核上性麻痺症候群(PSPSprogressive supranuclear palsy syndrome)大脳皮質基底核変性症候群(CBScorticobasal syndrome))は共に生前の確定診断(病理診断)はできないことから、症候群(syndrome)の‘’S‘が略語の末尾に付いています。つまり、生前の臨床診断では「症状から診て、PSPだろうと推定」とします。
そして、死亡後に病理解剖して、「確かにPSPでした」というふうになるのです。どちらも難病指定されており根本的治療方法は見つかっていません。だからと言って、あきらめたくはないです。

今回は、両者を比べるとPSPSの方が発症頻度が高いようですから、PSPSについて記します。
PSPSは有病率が人口10万人あたり1020人程度と推測されています。高齢者の寿命が伸びるに従って増える傾向にあるのかもしれません。統計上の数値を見ると「稀な病気」のように受け取られがちなのですが、介護施設では普通にみられます。

PSPSの人は大体こんな感じ
「第一印象は若い」と思うことです。若いと言っても、大体70歳前後から80歳くらいにして、寝たきりの全介助が必要なほどに動かない・しゃべれないという状態を見ると誰もが思います。
こういう状態の人を見たら、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)による後遺症で寝たきりになっているのだと思うかもしれません。そういうこともありますが、PSPSCBSの疑い有りという視点は必要です。何故なら、レビー小体型認知症(DLB)や前頭側頭型認知症(FTD)と診断されていたり、診断がないこともありますから。


「統計」というのはウソをつくことのできる魔法の数学です。統計でも何でもない私の‘数字あそび’では、5()/100()×1005%が有病率となります。つまり、入所者100人の介護施設で5人のPSPS患者が生活しているということです。適切な知識があれば、PSPSにせよCBSにせよ、これらの診断と治療を守備範囲とする神経内科医よりも、介護関係者の方が気付きやすいのではないかと感じます。
何故なら、1日中、お世話を通じて表情を見て、身体に触れているからです。このことは診療で多忙な医師には真似のできないことです。

以下は介護を通じて気付けるポイントです。
・食事は全介助で、飲み込むのが遅くて咽せることがある
・眼球を横方向に動かすことはできても、縦方向には動かせない(核上性注視麻痺)
・頸部が筋強剛していて、頭が後ろに反り返っている
・年齢の割に顔のシワが目立たず、艶やかな感じ
・無言、無動で、声をかけても反応がほとんどない
・手や足を硬く曲げたまま、あるいは伸ばしたままで鉛のように硬い(鉛管様筋固宿)
・手を握り締めている(爪白癬ができるほどに指先を握り込んではいない)
・時々、ぴくつきを生じることがある(ミオクロヌース)
・理由もなく「フフフ」を笑うことがある


予後はどうなるのか
このブログのトラフィック解析では、どういうキーワードでこのブログにアクセスされたのかを知ることができます。毎日のように、「大脳皮質基底核変性症」・「末期症状」というキーワードでの検索がありますので具体的に記します。

(1)老衰、または何かの疾病に起因する死亡
自分の体調不良・苦痛を訴えることができないですから、介護者は様子を見守るしかありません。
ある入所者(Iさん)は車椅子からベッドに移乗した後に、「クー」と声をあげて、眼球を上に向けました。眼球を上に向けることはできないはずなのに、ただでさえ大きな目をさらに大きく開けたものですから異変に気付き、救急搬送されました。CT検査で腹部大動脈留が見つかり、それが破裂して亡くなりました。PSPSは眼球を上下方向に動かせないということを知らなければ異変に気付くのが遅れたかもしれません。当該施設では、老衰による天寿まっとうの最期を迎えた人はいません。

(2)嚥下障害により経管栄養へ
胃瘻造設の是非はさておき、第三期(症状の末期)ともなると嚥下状態は悪いです。加えて、食べるという行動すら理解できていないのか、食べ物・水分を必要もないのに咀嚼し続けたりします。また、食塊を口元まで持っていくと、歯を食いしばって口を開けないこともあります。
こういう状況にあっても介護現場は胃瘻造設(経皮内視鏡的胃瘻造設術 PEGpercutaneous endoscopic gastrostomy)を避けるべく、経口摂取の維持に尽力するものです。

しかし、何らかの疾患で入院したら、その苦労はそこまでです。入院先の医療機関が胃瘻造設を患者家族に勧めるのです。そうなると、胃瘻造設された人は、人手不足の理由で元の施設に戻ってくることができなくなることがあります。ですから、「もうあの人たち(Iさん、Kさん、Uさん)に会えない、お世話することはない」という、入院に到る疾病が施設介護者としては一番怖いです。実はこれが結構辛い経験でもありますし、無念でもあります。

(3)誤嚥性肺炎、窒息死
PSPSCBSも末期ともなると嚥下機能は悪いです。だから、どんなに頑張って経口摂取の介助を続けても、いずれは胃瘻となります。施設入所時に既に胃瘻造設された高齢者が入所することもたまにはあります。YさんはPSPSだったのだろうと推定される人でした。1年ほど前はショートステイ利用者でしたが、当時はまだ自立歩行ができていました。

それが、姿を見ないので記憶から消え去ろうとしていた時に入所となりました。過去に見た面影はどこにもありません。やせ細り、四肢の著しい硬直から浴衣を着て寝たきりでいました。胃瘻のあとギャッジアップしていたのですが、そのまま亡くなりました。
PSPSCBSの死因の多くは肺炎や喀痰による窒息などと考えられていて、誤嚥性肺炎には気をつけることは日常的に行われていますが、窒息するリスクを抱えているということも知っておかなければなりません。


PSPSCBSの介護者だから言いたい
「介護サービスの向上」ということは、どの施設(介護保険の分類を問わず)でももっともらしく言われ、それなりに何かやってはいます。(時には、極めて表面的で美辞麗句を並べ立てて・・・)
我が国はもはや「高齢化社会」ではなく、「高齢社会」でもない、「超高齢化社会」なのです。それに伴って認知症患者が急増することは分かり切っています。

当然、難病と指定されたPSPSCBSも増加するであろうことは容易に推測できます。これは、現場でも実感しています。「あら!またですか!」と思うほど、PSPS或いはCBSと推定される入所者が入ってきます。初めは「ピックぽいね、レビーぽいね」と思ってみていたのですが、進行する症状をしっかりと年単位で観ていると「どうもそれでは説明がつかないよね・・・」と思うこともあります。

病院・老健、あるいは病院・老健・特養の医師は、雇われ嘱託医であれ経営者であれ、患者の様子を長期にて亘って診させていただく機会を与えられているのです。こういう貴重な経験から、神経内科を専門とするか否かを問わず、PSPSCBSを鑑別する能力も習得しなければなりません。それが、プロというものです。

認知症急増の現在、神経変性性の第4の認知症、それはPSPSCBSというのは介護現場で感じる新たな「時代の流れ」なのかもしれません。このことを示唆する問題点は既に提起されているので、転記しておきます。

PSPSCBSに関する問題点
■稀な病気と認識され、認知症・神経専門医の臨床経験が乏しい
■講演会・研究会・学会ではマイナー扱いで誰も取り上げない
■薬剤の有効性が乏しいため、製薬会社・学会の関心がない
■動作歩行障害のため、パーキンソン関連疾患として一括りにされた
PDDLBATDと誤認される症例が非常に多い
■抗認知症薬やパーキンソン治療薬などで著明に悪化する症例が多い
■高齢化に伴い75歳以上で発症する症例が急増している
(出典:認知症治療研究会会誌 Vol.2 No.22016p.119


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