2016/07/09

介護従事者だから知っておきたいCBSとPSPS(6)

寝たきり、あるいは寝かせきりの施設入所者に多いのは、脳血管障害(脳卒中)の後遺症でADLをすっかり失い、寝たきりで過ごす以外に手の施しようのない人です。離床は食事と入浴のときだけです。
もはやこの状態ともなると、「せめて離床してレクレーションに参加しましょう。なにか楽しみでも」と、離床介助する気にもなりません。ひとつには人手不足で忙しくて手を差し伸べるだけの余裕がないからでもあります。


PSPSの症例
【症状】
Nさん(77)は寝たきりです。全身が鋼鉄のように硬直しています。動くのは首だけで、横方向に首を振るように自分で動かすことができます。その様子は「イヤ、イヤ」と首を振っているかのようです。しゃべることもできません。胃瘻も造設されており、「なんだかよく分からないけれど、末期状態」というのが第一印象でした。こうなると、生活のお世話をするというより、生命維持のためのお世話をするといった感じです。

初めは脳血管障害(脳梗塞、または脳出血)だろうと思っていました。けれど、調べてみるとその既往歴はありません。ただ腑に落ちないのは、アルツハイマー型認知症(ATD)とされていました。仮にATDだとして、これほどに全身が硬直することはありません。ATDではどちらかというと柔らかいですし、硬くてもせいぜい「鉛管様筋固宿」を感じさせる程度です。また、常同行動を思わせる首振りも考えにくいです。

手指は関節リウマチを思わせる変形がありますが、やはり硬いです。ただ硬いながらも、鉛管様筋固宿のようにジワジワと動かすことができます。また、顔は皮脂によるためか艶やかでシワが少ないです。




【経過】
たまたまこのNさんの配偶者が施設職員で、家族として直接お話しをお訊きすることができました。

デイケアに通っていたこともあるけど、次第にワイドベース歩行で歩行障害が出てきた。言葉が出にくくなったため、脳神経外科を受診してタップテスト(脳脊髄液を30ml排除)を行ったら、しゃべることができるようになり、歩行も改善したとのことです。


また、別の医療機関ではCT検査で海馬の萎縮があることから、アルツハイマー型認知症(ATD)と診断されたとのことです。
「海馬萎縮=ATD」と考えるのは必ずしも正解ではありません。ATD以外の認知症でも海馬萎縮はあります。この間に入院したこともあり、急速に動けなくなってしまったというのです。

この症例の場合、第一印象で脳血管障害による後遺症だろうと思っていましたが、「状況証拠」を集めてみると進行性核上性麻痺症候群(PSPS)だろうと思うようになりました。以下にその「状況証拠」を記します。


 ・ATDに比べると、早期に寝たきり(歩行障害、嚥下障害)になったこと
 ・介護抵抗があり、家族が介護に難渋したこと
 ・アリセプトが処方されたが、興奮・易怒性が出て服用を中止したこと
 ・無言、無動で視線がまったく合わない、眼球が上下に動かない
 ・極度の筋固宿
 ・服用している薬はなく、薬剤性の原因は考えられない

以上のことを元に総合的に判断して、PSPSと正常圧水頭症(NPH)の合併症なのだろうと推察されます。因みに、レビー小体型認知症(DLB)との比較でみると、DLBの場合は目を閉じて眠っていることが多いのですが、PSPSではしっかりと目を開けていることの方が圧倒的に多いです。

第3期(末期状態)となったこの両者、排泄ケアでパッド交換をすると分かるのですが、PSPSの場合はまったく介助抵抗らしき動きは見せません。一方、DLBの場合は上肢が硬いながらも股間に手を動かそうとする動作があります。

【対症療法】
何故このようになってしまったのか・・・?! 家族は診断と治療経過が腑に落ちないとのことで、現状が寝たきりであることにも納得されていないようです。治療方法がないことから、ガイドラインでは専らリハビリについて記されています。しかし、患者家族としてはなんとかならないかと希望を捨てきれないものです。


【まとめ】
認知症が詳細に分類され臨床診断されるようになってきたことで、患者本人または患者家族が「腑に落ちない」状況から脱することができるようになってきた意義は大きいです。それに追従して治療方法(コウノメソッド)が見つけ出されるようになってきたことは希望が持てます。

しかし、一方で残念なのは、一般の医師がそのことを知らないということ。加えて、専門とされる神経内科医ですら鑑別(臨床診断)すらできずにいることには憤りをおぼえます。その結果、介護現場では多大な迷惑を被っているということ、また患者家族はどうすることもできないままでいるということです。

今回取り上げた症例は、患者本人の家族が施設職員であり同僚であることから、ある程度まとまったお話しを聞くことができましたので、参考にと「コウノメソッド流 臨床認知症学」(日本医事新報社刊)からp.358375をコピーして渡しておきました。あとはどうするか、家族次第です。