2016/03/06

介護現場で気付くCBS

現在のところ原因不明であり、根本的治療方法はないとされてはいても現実問題として介護しなければならない要介護者に大脳皮質基底核変性症候群(CBS)を罹患している人がいます。

統計上は希(1万人に数人)のようですが、実際は決して無視できるような頻度ではなく、介護施設では’身近な存在’として理解しておきたいです。


我が国の難病のひとつに指定されているCBSなのですが、製薬会社が製品を持たず、従って治療方法がないことから大きく注目されることもないためあまり知られていないだけなのだと思われます。進行性核上性麻痺(PSP)と大脳皮質基底核変性症(CBD)は鑑別が難しいようで、これらをまとめて大脳皮質基底核変性症候群(CBS)と称するようになってきているようです。


介護現場で気付くCBS

CBSは生前に確定診断することはできません。死後に病理検査してみないと確定することはできませんが、それでは患者本人や介護者にとって確定診断は何の意味も持ちません。それでも、症状を見て「CBSかもしれないね」という根拠を掴み、現在の治療技術で対処可能な治療につなぐことは意義があります。

現在可能な対症療法
グルタチオン点滴、フェルガード、リバスタッチ

患者本人のメリット
 ・口から食べられる(経管栄養の回避)
 ・自力でできることの維持、あるいは増加
 ・自分の意思(希望)を伝えるコミュニケーション能力の維持

介護者のメリット
 ・食事介助時間の短縮
 ・移乗や更衣などの介助時に受ける過重負荷の軽減
 ・入院を機に退去することなくお世話を継続できる


第一印象
施設入所者を初めて見たときの印象は、「あら、まだ若いのに寝たきりなのですね」ということです。これは全症例に共通することです(特養の場合)60歳後半から80歳前半で、寝たきりの全介助です。車椅子はリクライニング式を利用します。じっとしていて動きませんし、上肢が曲がったままであったり、無言・無表情で極めておとなしいですがら、脳卒中後遺症の麻痺とアパシーのある患者かと思ってしまいます。

食事介助
食事は嚥下障害があることから刻み食かペースト食です。お茶も当然トロミがつけられています。食事介助では誤嚥に十分気をつけるのですが、嚥下(飲み込む動作)が極めて遅いです。口腔内にため込んでいる時間が長く、時には噛む必要がないにもかかわらず噛み続けます。たまにタイミングが合わないと、プッと吐き出したりします。

更衣介助・排泄介助
PSPの場合、頸部は後屈して固くなっていますし、全身が鉛のように固いです(鉛管様筋固宿)。脳卒中後遺症による固宿ではいくら力を入れても麻痺した腕は動かせないですが、PSPでは固いながらもゆっくりと動かすことができます。
左右両方の腕がこのように鉛管様筋固宿していますが、いくらか左右差があります。また、片方は真っ直ぐ伸ばしているのに片方は曲げたままの状態です。
この‘鉛の様に固いという感触は、’更衣介助をしている介護者であれば誰でも気付けるポイントです。自発的に身体を動かすことはありません(無動)から、更衣介助に協力する動きはありません。また、ベッド上での排泄介助(オムツ交換)に協力することも抵抗することもありません。

顔は、年齢の割に色艶がいいとか、シワが少ない印象を受けます。目は開けていることが多いです。眼球が左右には比較的動くのですが、上下方向には動きません。症状が進行すると、上下左右方向とも動かず、常に同じ方向だけを見ている人もいます。指を顔の前に近づけて、「指を見てください。右、左、・・・」と言って、視線の動きを調べてみるとよいです。左右の方向には割とよく動くのですが、上下方向にはまったくと言っていいほど動きません。

コミュニケーション
「調子は如何ですか?」とか、「食事に行きませんか?」と声をかけても返事をすることは希です。せいぜい、頷いて同意するくらいです。たまに、少し間をおいて「はい」と言うこともあります。言葉の一音一音は明瞭ではありませんが、レビー小体型認知症(DLB)に比べると大きな声を出すようです。
しゃべれないから認知症、反応がないから認知症。なので、なにも理解できない、分からない、感じない、という認識は介護者としては捨てるべき態度であろうと思います。ただコミュニケーション能力がないだけであって、喜怒哀楽をちゃんと感じているのかもしれません。

対応
こうしてみると、実はCBS患者(施設利用者)は案外普通に居るのです。残念ながら、医療機関ですら診断できていません。特に精神科医療機関での入院を経て施設入所となったケースでは、単に「認知症」、あるいは「アルツハイマー型認知症(ATD)」とされています。即ち、正診率0%です。

その結果どうなるのかというと、介護現場で負担を負うだけであり、嚥下障害から入院。そして、施設退去でもってお世話を終えるだけという虚しい顛末を迎えるのです。天寿まっとうの最期までお世話した症例は1件もありません。

「医療情報提供書を鵜呑みにするな」 これは、認知症に関する限り言える鉄則です。家族にしてみれば、施設に入れたから安心だと思うのは幻想に過ぎず、ただ単に介護負担を移譲しただけなのです。
受け入れた施設では介護保険法に則り、介護計画(介護プラン)を立てることになるのですが、どんなに時間と労力を費やして立派な計画書を書き上げたとしても何の役にも立ちません。美辞麗句を並べたに過ぎないのです。

先に記したようなことから、「CBSかもしれないですね。ならば、こういう対症療法がありますが・・・」と、家族に説明してみることが何より必要なことです。

人手不足が深刻な事態に陥っている介護現場の現実を見ると、食事介助に人手と時間を要する疾患はできるだけ薬物治療で症状を改善することが従前にも増して必要不可欠なのです。