2016/02/08

認知症医療と介護


転換期を既に迎えている認知症医療と介護

質の高いニーズがなければ、質の高いサービスは育たない。これはなにも、外食産業やホテル・レジャーなどに限ったことではなく、医療についても、介護サービスについても同様です。
極めてシビアな話し、手術に失敗して半身麻痺となったら患者・家族はどうしますか? 補償を求めて訴える措置をとることもあり得るでしょう。医療とてサービスなのですから、質の高いサービスを求めて当然なことです。レストランに行って、美味しくなければもう二度とそこには行かないでしょう。だから、最大限の努力をするのです。


ところが、認知症に関しては「医者任せのやりっ放し」。これが現実なのです。「認知症外来」、「もの忘れ外来」を標榜しているからといって、「大病院だから大丈夫」、「大学病院だから大丈夫」というのが実は、質の高い医療サービスを受けることと同じではないのが現状なのです。医療機関で処方された抗認知症薬を服用して、症状が悪化したということが往々にしてあるのです。「歳のせいですから・・・」、「症状が悪化したのです・・・」という説明がなされても、実は薬のせいであることに気付けない医師も多いのです。


医療無責任
連鎖

Oさんはレビー小体型認知症(DLB)の初期でした。精神科開業医に長年通院していましたが、処方されていたのは向精神薬と睡眠導入剤。様子がおかしいことに気付いた家族が連れて行った大学病院で検査して診断が「認知症」。それで出された薬がアリセプトでした。
大病院に入院したOさんは次第に口から食事を摂れなくなり、経鼻経管栄養(鼻からチューブを通じて食事する)になりました。その後、療養型病院に転院したのですが、症状は悪化するばかりでした。
レビー小体型認知症(DLB)なのですから、アリセプトが原因で食事ができなくなったことは当然考えられることです。複数の医療機関に受診、入院したのですから、どこかでレビー小体型認知症(DLB)だよね、アリセプトはこの患者には会わないよね、と気付くことさえできなかったのです。
  

多職種無責任連携

Mさんは全身が硬直していて寝たきり状態で入所してきました。声かけに反応もなく、終日ベッドに臥床しており、食事と入浴の時に離床するだけでした。初めは脳卒中後遺症による麻痺なのだろうと思っていました。
水分補給のためとろみのついたお茶を飲ませようとすると、口をギュッと閉じて拒否() 離床時に上着を着せようと拘縮した腕をゆっくりと動かすと、鉛のようにジワジワと動き、歯車のようにカクカクとした抵抗感触があります。頸部は後ろに反り返り、顔は年齢(70歳後半)不相応に艶やかでシワがなくて蝋人形のような印象です。
「痛い!」大きい明瞭な声で、動かそうとした腕の痛みを訴えます。また、眼球がどう動くのか注意深く観ていたら、左右横方向には僅かに動くものの、上下方向にはまったく動かないことが分かりました。

この人はどういう生活歴(ある意味、治療歴)を有しているのだろうと思い、情報ファイルを見てみました。するとそこには、LPC症候群を示唆する記録がありました。
 ・近所の郵便受けから郵便物・配達物を盗む
 ・家族に暴言を吐き、暴力をふる、奇声をあげる
 ・幻覚や妄想がある
 ・デイサービスに行くのを拒む
 ・転倒しやすい
こういった記録と、現在の状態(症状)を照らし合わせてみると、CBSCorticobasal syndrome 大脳皮質基底核症候群)なのだろうと鑑別してよいと思います。確定診断ではありません。確定診断は、死後脳の剖検をしないと分からないのです。

病理学的診断(確定診断)は一旦横に置き、症状から鑑別して、
 ・介護上(あるいは、生活上)、困っている症状は何か?
 ・具体的かつ現実的に実行可能な治療とは何か?
ということを見出さなければなりません。Mさんの場合、単に「認知症」との診断が下されていたのですが、症状が緩やかに進行する過程で、看護師、理学療法士(あるいは、作業療法士)、介護士が、各々に看護、リハビリ、あるいは介護の場面で関わり合い、CBSではなかろうかと気付くことができたはずです。
にも関わらず現在は寝たきりの全介助となり、適切な治療もなくただ単に介護施設でお世話するだけとなっています。はっきり言って、介護現場が全介助というカタチで多職種無責任連携の後始末を強いられているのです。





今すぐ実行できる具体的かつ有効な答えを示す

先に示した症例は、「もの忘れ外来」を標榜する現在の一般的な医療機関での認知症治療としてはやや難治例かもしれません。
前者の症例のDLBの場合、初期の軽度であったこともあり診断がきちんとできなかったのでしょうが、大学病院の診断と処方に疑義を持たなかったこと、アリセプトを中止しなかったことが災い(天寿まっとうには早過ぎる死を迎えています)しています。

後者の症例のCBSについては、我が国における正確な統計は存在しないのですが、人口10万人当たり2人程度でやや女性に多いとされているようです。私も実際はもっと多いはずと思いますが、認知症治療研究会の神経内科医にお尋ねしたら、「統計より多いです。製薬会社が治療薬を持たないから注目されないのです」と教えてくれました。


「認知症は治らない」というのは、病理学的な厳密性から言えば事実です。一方、臨床学的にみて周辺症状を治せるということもまた事実です。認知症の病理についてはまだまだ未解明のことが多く、依然として根本的治療には無力です。しかし、だからと言って、適当に何かやっていればいという訳にはいかないのです。即ち、医療費高騰、介護費高騰の大きな要因となってしまうのです。

医師のみならずコメディカルも含めて、こういう「不都合」を是正することに問題提起しているのが、認知症治療研究会なのです。