2015/11/12

転院直後の薬剤変更は行わない方がいいの?


「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015()に対するパブリックコメントに次のようなコメントが寄せられていたとのことです。(日本老年医学会 パブリックコメントのまとめと回答参照)
介護施設入所者に関し、転院直後の薬剤変更は行わない、と記載しておりました(CQ4)。これに関し、介護施設においても入所直後から薬剤変更を必要とする入所者が少なからずいる実体を考慮すべきとのご意見をいただきました。サマリー内での「転院」とは病院から介護施設への転院を指したつもりでしたが、説明が不足していました。医療施設間の正確な患者薬剤情報伝達を徹底することが真意なので、以下の「また患者にとって転院は環境の変化を伴うため、転院直後の薬剤変更は行わない」との文書を削除しました。(p.22)

現代書林 2015/12/03発行
 介護施設においても入所直後から薬剤変更を必要とする入所者が少なからずいる実体というのはごく普通のことで、むしろ、施設入所時に数日~数週間のうちに入所前に処方されていた薬剤のレビューを行って適正化を図る必要があるとさえ言わざるを得ないこともあるのです。診断名にさえ疑義を指摘したいこともあります。

即ち、
・症状(行動)をよく観察して、診断の妥当性を検証する
・処方されている薬剤の妥当性を検証する
・前医の治療が最適・最良であったと過信しない
ということです。但し、このような手続きは「絵に描いた餅」のようなことでもあり、介護施設で実際にこのようなことができるのかというと疑問です。

それでも、
認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか? 本当です! ということは知っておきたい事実です。



【事例】
ある入所者は、一目見て前頭側頭型認知症(FTD)と鑑別できる程なのですが、アルツハイマー型認知症(ATD)との診断でした。そして、ドネペジル(5mg)が処方されています。そのため、人格や品格が著しく荒廃していて、高齢者としての尊厳も何もないような状態にさせられています。FTDへのドネペジル投与は不適切ですし、そもそも適用はありません。

とても哀れなのは本人のみならず、面会にお出でになる家族です。多分、「回想法が認知症にいい」とでも聞いたのでしょう、古いアルバムを持参しては写真を見ながら、昔話をしています。

回想法を否定するつもりはありませんが、それ以前にやるべきことはドネペジル服用を中止することなのです。この中止ができないために介護負担が増えているばかりか、本来ならば回復の見込めるQOLを著しく低下させているのです。そして、家族が離ればなれに暮らさざるを得ない状況に陥れられているのです。

上記は先に挙げた、「介護施設においても入所直後から薬剤変更を必要とする入所者が少なからずいる実体を考慮すべき」という典型事例のひとつです。類似する事例は、施設入所者ではなく、ショートステイ利用者にもみることがしばしばあります。


「ただの介護職の分際が口出しするな!」という不文律

介護施設の理想!?
介護施設で上に挙げたような事例に気付きながらも、何も手出しのしようがないというのが実情です。実は、言うだけ無駄なのです。何故なら、施設というのは聞く耳を持たず、知識も持たず、「コトなかれ主義」の人だらけの集団だからです。

何年も前から言ってきてはいるのですが、さっぱり改善されないです。「ただの介護職の分際から口出しされたくなければ、アンタたち医療職が気付いて、言いなさい」なのです。更に突き詰めれば、「ちゃんと患者を診て、迷惑をかけない治療をしなさい!」ということです。

施設を選べば認知症は良くなる!






「施設を選べば認知症は良くなる」というのは絵空事ではないです。医療法人社団秀慈会ホームページから次の研究報告が公開されているのを見つけました。

   1回認知症治療研究会(東京)
   平成2731
   タイトル:BPSD治療における老健の存在-少量薬物療法を通して見えてきたもの-
   

認知症患者数は現在約400人と推定されており、それに伴って、家庭であれ、介護施設であれ、さらに一般病院であれ、BPSDを伴った患者の対応には非常に苦慮している。そこで当施設では、そのような困っている陽性BPSD患者を少しでも軽くし、本人のQOLの向上と家族及び介護現場の負担を軽減するために当老健施設の認知棟ショートステイ(SS)を使い少量薬物療法を試みBPSDを軽減させ、より多くの利用者がSS可能となるか検討した。これにより認知症まつわる諸問題の解決の一助となりえるか、さらに現在、急性期病院でのBPSD患者の「受け皿」施設としての可能性も検討したので報告する。
老健のみならず、特養も、有料老人ホームも、グループホームでも認知症の治療について感心を持ち、施設で総力を結集して適切な認知症治療に取り組むことが必要であり、この報告から明らかになっている解決策を実践してみる意義は大きいのです。

そして、これに続く別の報告では下記のように成果が記されています。

  1 職員全体が認知症についての医学的知識が増えスキルアップした
  2 二年前から認知症棟でバーンアウトによる退職者が出ていない
  3 家族の訪問が増え、認知症棟のイメージが変わり明るくなった
  4 少量薬物療法で患者のADLQOLが上がった
  5 患者・家族・職員から笑顔が溢れた




認知症医療・介護施設が見習うべき在り方というのは、こういう有効な方法を実践している施設であると思います。