2015/10/24

弄便に関する一考察

弄便、静かなる介護抵抗

弄便(ろうべん)とは、自分の排泄した、あるいは排泄しつつある大便を素手で触る行為です。
認知症患者で弄便はしばしばみられ、「患者の気持ちに寄り添いましょう」とか「何故、そうするのか考えてみましょう」などという「きれいごと」で理解するような行為ではないです。
弄便を行うことに合理的な意味や目的を見出すことは少なく、唯一、排便コントロールがうまくできていない(つまり、便秘)に原因があるのだろうということくらいです。

便を食べる(異食)、壁にこすりつける、手遊びをするなどさまざまな行為がみられ、介護の問題となっていますが、治療対象として「土俵」に乗ることのない周辺症状(陽性症状)のひとつです。

対策としては、定期的な排泄誘導による排泄の習慣付け、下剤服用、看護師の居る施設では摘便(肛門から指を入れて便を掻き出す医療行為)があります。手にミトンを着用させるとか、つなぎ服を着せるという方法もありますが、これらは「身体拘束」になるとして実施しないのが実情です。、

介護現場では、さまざまな程度・症状の認知症患者が入所しており、弄便を行わない患者にとって、弄便により生活環境が汚されることは大変不潔・不快なことであり、職員は一日に何度も掃除(後始末)をせざるを得ないなどの無形の負担を強いられています。
なお、弄んだ便を口に入れた場合、「異食」となりますので「事故報告書」を書くことになります。

ベッド上で弄便をした場合、発見した介護者が行う作業は以下のことがあります。因みにこれら一連の後始末には概ね20分程度の時間を費やします。

  •  口腔内に便があるかどうかの確認
  •  管理者、看護師等への報告
  •  衣服の更衣
  •  離床して手荒い
  •  シーツ交換
  •  ベッド柵などの清掃


弄んだ便を口に入れる心理はまったく理解できないですが、口腔内に便があれば口腔内清拭(またはうがい)をして、牛乳(なければお茶)を摂取させます。大抵の場合、弄便するような状態では介護抵抗もありますので、便を触った手に使い捨てビニール手袋を着用させます。
実際には、上に挙げた対応の何より先に使い捨てビニール手袋を着用させます。こうすることで、二次汚染を避けることができます。清拭タオルで拭き取ることはしない方がよいです。あとで流水で洗い流す方が効率的です。爪に便が入り込んでいることが多いですから、ブラシでよく洗いおとします。


ストレスになる弄便

単なる便失禁であれば、その始末をお世話するのも介護の仕事なのですから、手間を厭わないものです。ところが、弄便となるとハナシは別です。「自分でなんとかしようとした」とか、「気持ち悪かったのだから」という理解を超越した憤りが先行します。

ある在宅の認知症患者(Hさん)はおとなしいタイプの前頭側頭型認知症でしたが、家中の至る所に便を塗りつけていました。トイレに立っていながら、便器以外に放尿することもありました。介護者である奥様の話を聞くと、「情けない!」、「腹が立つ」という思いだけであるとのことでした。

実際の所、それ以外それ以上のなにものでもありません。「何故、弄便したのか話しを聞いて、背景となる理由をアセスメントしてみましょう」などと介護の本に記されていたりもしますが、机上の空論ではないかとも思えます。第一に、コミュニケーションできない人が弄便するのですから、理由の聞き出しようがありません。

  

弄便と認知症の症例

便秘だからとか、失禁して気持ち悪いからといった着眼点ではなくて、認知症の症状を中心に症例を以下に挙げます。

症例1(S)
脳卒中後遺症で右麻痺あり。掻き込みで早食いで一品ずつ食べる。ズボンの裾をたくりあげる。
弄便が常習化しており、2~3日に1回の頻度で弄便する。多い時は1日に2回のこともある。
  
症例2(T)
脳卒中後遺症で軽度の右麻痺あり。食べ物を手掴みで食べる。臥床時に常に紙オムツに手を入れる。パッド交換が終わるとすぐに紙オムツに手を入れる。

症例3(N)
脳卒中後遺症で左麻痺あり。介護抵抗があり、介護者をつねる・ひっかくなどの行為あり。ズボンの裾のたくし上げがある。
  
症例4(E)
LPCで盗食が常にある。時々怒ることもある。ズボンの裾のたくし上げがある。

症例5(I)
年齢103歳で全介助が必要ながら、年齢の割には元気が良くピック症状があることから嗜銀顆粒性認知症(AGD)と推定される。ズボンの裾のたくし上げがある。

【注記】脳梗塞と脳出血を合わせて「脳卒中」というのですが、脳梗塞なのか脳出血なのか資料を見ていないので単に「脳卒中」と記しています。片麻痺があって、脳血管性の疾患があることが明らかな人を症例として挙げています。


考察

少ない症例数ながら以上のように見てみると、実はアルツハイマー型認知症(ATD)の人が弄便する率は低いですし、レビー小体型認知症(DLB)の人も同様に低いです。血管性認知症(VD)やピック症状(あるいは、ピック症候群)のある人に多く生じるような印象です。なお、ズボンの裾をたくし上げる行為は前頭側頭型認知症(ピック病)にみられる症状(行動)です。

弄便するからといって、治療を求めることはなく介護の問題として見られるのが一般的でしょう。もし仮に、弄便の治療を求めて受診したとしても何の手立てもないとされることでしょう。
しかし、上述の症例から類推して、弄便は前頭葉の機能不全(陽性症状)であるとみなしてもよいのかもしれません。

すると、クロルプロマジン(ウィンタミン/コントミン)が弄便対策に有効な選択肢のひとつでは? という淡い期待が湧いてくるのですが、そのような文献報告は調べた限りでは見当たりません。もしかしたら、イグノーベル賞に値する発見かも知れない(笑)