2015/09/07

前頭側頭型認知症の症例

前頭側頭型認知症は医師でなくても鑑別できる

前頭側頭型認知症(FTD)はアルツハイマー型認知症(ATD)と誤診されることは多々あります。逆に、アルツハイマー型認知症が前頭側頭型認知症と誤診されている事例に遭遇したことはありません。勿論、これらの認知症が境界線をもってきれいに鑑別されるとは限らず、混合型もあります。

ただ、経験的に言って、FTDをしっかりと理解して鑑別できるようになると、ATDもしっかりと鑑別できるようになります。これは当然のことで、ATDは除外診断なのですから。ある意味、認知症診療に於ける診断(鑑別)精度向上のポイントは、FTDの理解にあると言っても過言ではありません。

「認知症」と言えば、ATD、DLB、VaDの3タイプについて幾らか知識がある程度だった私は、特養で理解不能の症状に多数遭遇することになりました。上記の3タイプに関する知識だけでは理解も鑑別もできない施設利用者が居たのです。これらの方々は、このページでこれから説明する症状を呈する人たちであったのです。

認知症診断にCT画像検査があれば、補助的ツールとして有効であることに違いはないのですが、その補助がなくても鑑別は可能であると実感されます。コウノメソッドでは、画像検査装置がなくても診断が可能なようにシステム化されています。

認知症は普段の生活をよく観察すれば、見抜くことができます。人は歳を取れば誰でも呆けてきますが、それは正常なことです。問題なのは、「社会適応能力」が著しく阻害された状態にあり、陽性症状のため他人に迷惑をかけるような状態に陥ってしまうことです。



認知症の中で特に「迷惑」なのが、前頭側頭型認知症(FTD)です。従来、FTDはピック病と呼ばれていました。厳密には、FTDとピック病は違うのですが、大雑把に言って同等と認識して構いません。(このブログでは、ピック病と記したり前頭側頭型認知症と記したりしていますが、ほぼ同義語として混用しています。)

前頭側頭型認知症のスペクトラム

ピック病の症例がアーノルド・ピック医師によって報告されて120年以上経過しました。ピック病は、マンチェスターグループによる分類で、前頭側頭葉変性症(FTLD)の下位に組み入れられました(1996年)。
この分類では、臨床分類と病理分類が混在してしまい、理解しにくい概念となっています。例えば、ピック小体の有無にかかわらず、症状から分類して「ピック病」という。言葉の意味が理解できなくなってしまった症状の認知症を「意味性認知症」という。こういった具合に、原因(病理)と結果(症状)が同じ「土俵」に並んでいるのです。
下図は前頭側頭葉変性症(FTLD)の分類を示す概念図です。「ピック病の症状と治療」(フジメディカル出版)、p.92より

加えて、症状があまりにも多彩ですから、理解しづらい概念となっています。前頭側頭葉は大脳の中でも大きな容積を占めますから、萎縮した部位によって多様な症状が現れます。更には、その人の性格とか生育歴や習慣なども症状を修飾します。


それでも介護者は観ている ・・・ただ知らないだけ?!
前頭側頭型認知症の鑑別は難しいのか、というと必ずしもそういう訳ではなくて、実は施設介護者は観ています。ただそれを「前頭側頭葉変性症だ!」と知らないだけのことであるようです。

日中の職員が多い時間帯は当然のことながら、夜勤帯にシフトが替わる見守りが手薄になる時間帯に、事故防止のために同じテーブルや隣接するテーブルに寄せ集められる入所者が居るはずです。
その多くが、実は前頭側頭型認知症の人たちなのです。

 ・臥床介助してもすぐに起きてくる  ・大きな声で騒ぎ、要求訴えが絶えない
 ・頻繁にトイレに行きたがる     ・不必要なナースコールを鳴らす
 ・眠らずにベッド上で動き続ける   ・事故につながるリスクがあり、目が離せない

たぶん、特養や老健での夜勤経験者ですとか、日勤のみの人でも心当たりがあるはずです。上記に挙げた入所者で、「できれば施設から出て行って欲しい!」と思いたくなるような入所者の多くは前頭側頭型認知症の可能性があるとみてよいです。例外は、LPCの人、アリセプトを過剰に服用しているATDの人、ただ単に就寝するには早いと思っている認知症ではない人です。

前頭側頭型認知症の症状は多彩

FTDを医師ではない者が鑑別・見抜くことができないのかと言うと、実はそうではなくてちゃんと見抜いていることもあります。ただ知識がないが故に、それをFTDであると認識していないだけなのです。下記の症状(行動)は、どちらかというと在宅で行動がある程度自由な状況であれば遭遇することでしょう。

■状況に合わない行動
 身勝手な行動、状況に不適切な悪ふざけ、急に意味もなく笑うなど。
■意欲減退
 原因不明の引きこもり、何もしない。
■無関心
 服装や衛生状態に無関心で不潔になる。周囲の出来事に興味を示さなくなる。
■逸脱行為
 万引きなどの軽犯罪を繰り返し、反省をしない。他人の物を集めてまわる。
■時刻表的行動
 散歩など決まった時間に行う。止めると怒る。
■食物へのこだわり
 毎日同じもの(特に甘いもの)しか食べない。際限なく食べる場合もある。
■常同言語、反響言語
 同じ言葉を際限なく繰り返したり、他人の言葉をオウム返し。静止しても一時的にやめるのみ。
■嗜好の変化
 好きな食べ物が変わる。飲酒・喫煙が大量になる。
■発語障害・意味障害
 無口になる。はさみ・眼鏡などを見せても言葉の意味や使い方が分からなくなる。
 鏡に向かって話しかける。
■記憶・見当識は保持
 最近の出来事など覚えているし日時も間違えない。道も迷わない。

【注記】上記は認知症を学ぶ会」掲示板より転記引用(一部加筆)


前頭側頭型認知症の入所者が見せる症状

施設入所者の場合、生活に制限が加わるので上記のような症状(行動)を見る状況は少ないですが、下記の症状(行動)から前頭側頭型認知症の鑑別に繋がります。介護現場で注意して観ていれば気付けます。これらのうち、いくつ該当すれば前頭側頭型認知症であるという基準はありませんが、「ピックぽいね!」(前頭側頭型認知症なんだろうね)という感覚を掴む上で重要な手がかりとなります。

■落ち着きが無く、なかなか座らない
■腕組み、足組み
■ズボンのたくし上げ
■指しゃぶり
■口唇傾向
■歯磨きしない
■食行動の異常(異食、拒食、過食、掻き込み)
■ふざけ症(モリア)
■人前で裸になる
■びっくり眼(まなこ)

■落ち着きが無く、なかなか座らない
介護現場で困るのは、落ち着きがない、なかなか座ってくれない、じっとしていない利用者です。目を離した隙に何をしでかすか分からないからであり、他の利用者への迷惑行為、異食、転倒・転落に繋がるからです。
「どうぞ、お座りください」と声をかけても座らない人は座らないのです。
また、転倒のリスクが増大するから、目的もなく急に立ち上がるのも困ります。

■腕組み、足組み
これは迷惑ではないですが、場にそぐわない状況でこれらをされるとイヤな気分になるものです。例えば、トイレに連れて行き、便器の前だというのに足を組んだままじっとしている。食事の配膳が整っているにも関わらず、腕を組んだままじっとしているなど。

■ズボンのたくし上げ
迷惑ではないですが、ズボンをたくし上げることがあります。横になっていても、車椅子に座っていてもズボンをたくし上げます。また、ズボンをおろすこともあります。

■指しゃぶり
眠っている時以外は、常に指をしゃぶり続ける。手を清潔に保ってあげていれば指しゃぶりくらいは放置できるのですが、他の利用者などの傍目を思うと気持ちの良い行為ではないです。SD(意味性認知症)の利用者がピック化して指しゃぶりを始めた事例があります。また、慢性硬膜下血腫が進行したせいであろうと推定されるが、指しゃぶりが常同行動となってしまった事例もあります。
アルツハイマー型認知症(ATD)では、末期になってもほとんどこういう行為はないとされます。

■口唇傾向
口元に何かを持って行くと、口をすぼめたり、吸ったりする行為です。食事中にこれをされると、やたらと食事介助の手間と時間がかかるようになります。スプーンで食べものを口元まで持って行くと、急に口をすぼめてしまい食べないのです。摂食拒否かとも思えるのですが、そういう訳でもないようです。何とか口の中に食べ物が入ると、しっかりと咀嚼して飲み込むのですから。

■歯磨きしない
施設では毎食後、歯磨き(口腔ケア)するようになっていますが、自発的には絶対にやらないです。従って、介助することになるのですが、それを頑なに拒否するのです。その拒否があまりに激しくて歯ブラシをへし折られた事例があります。あまりにも酷い場合は2人がかりで口腔ケアを行うこともあります。ATDではこういう事例はないです。

■食行動の異常(異食、拒食、過食、掻き込み)
異食の事例は多々あるのですが、全員がFTDです。ATDDLBでは見たことがないです。ただ、1例のみアリセプトの過剰投与が原因で異食したADTは見たことがあります。
ファスナーを引きちぎってスルメのように噛んでいる、おしぼりを食べる、カーテンの布地から糸を引き出して食べる、膝掛けの装飾の玉(パチンコ玉程度の大きさ)を引きちぎって食べる、という事例があります。だから、仮におとなしいタイプであっても目が離せないのです。不思議なことに、FTDで弄便して、その便を食べるというようなことは見たことがないです。弄便も便を食べるのは、圧倒的に脳血管性認知症(VaD)の人に多いです。

拒食もしばしば見かけます。食事介助中、口元まで食べ物を運ぶと、顔を横にそむけるのです。自力で食事ができる場合、なかなか箸を付けない、食べ物を遊び道具のように弄ぶことがあります。

過食は見たことがないです。施設では提供される食事はカロリーや栄養が管理されているから必要以上の量は出てこないし、ご飯の「おかわり」もないからです。ただ、先ほど食事を済ませたばかりなのに、「ごはん!ごはん!」と際限なく叫ぶような事例があります。 

掻き込みは、何かに急かされるように食べるような行為を示すのですが、あまり見たことがないです。ただ、一品ずつ食べる行為はよく目にします。これは、VaDでもみられます。


■ふざけ症(モリア)
幼子のようにはしゃぎ、踊り、キャッキャと笑うという事例があります。「箸が転がっても笑う」という例えががあるのですが、まさにそういう感じです。 

■人前で裸になる

まさに前頭側頭型認知症を確信させる症状です。前頭側頭型認知症以外の利用者で人前で衣服を脱ぎ始め裸になる人を見たことがないです(但し、本当に裸になる以前に職員が気付いて、衣服を脱ぐのを制止するのは言うまでもない)。 ある日、最寄りの駅でうずくまっている老婆が警察に保護され、私の勤務する施設に緊急入所(ショートステイ)することになったのです。一見して「ヘンな感じ」と思っていましたが、入浴拒否にはじまり、急に人前で衣服を脱ぎ始めたので「前頭側頭型認知症だ!」と分かりました。

■びっくり眼(まなこ)
何か意表を突くできごとにびっくりして、「あっ!」と驚いたマンガのように目を見開くように大きな目をしています。FTDの利用者を見ていると、確かにそういう印象があります。勿論例外もあるのですが、私は不自然さを感じる目の開き具合をFTD鑑別の手段にしています。


ピックスコアで鑑別する

前頭側頭型認知症を鑑別するために、コウノメソッドでは「ピックスコア」という検査セットが用意されています。これを覚えておき、上に挙げた症状を見つけ出せば、前頭側頭型認知症を鑑別できます。




前頭側頭型認知症の治療

海外のサイトを検索してみると、前頭側頭型認知症の治療方法はないとか、少量のSSRI(抗うつ薬の一種)か少量のアリセプトが有効な場合があると記されている程度です。日本国内でも同様、SSRIの使用が少数ながら言われている程度で、コウノメソッドで提唱されているように、ウィンタミン(一般名:クロルプロマジン)とフェルガード(一般名:フェルラ酸)が前頭側頭型認知症に有効であるという記述を見出すことはありません。
それだけに、「前頭側頭型認知症にウィンタミンとフェルガード」という治療方法は前頭側頭型認知症の患者・介護者にとっては福音です。