2015/09/13

前頭側頭型認知症 -鑑別に迷う症例-

「最近、レビー小体型認知症が増えている」とマスメディアで取り上げられることはあっても、「前頭側頭型認知症は最近増えている」とマスメディアで言われることはないようです。理由のひとつに、治療薬として既存の抗認知症薬(アリセプト、メマリー、レミニール、リバスタッチ/イクセロンタッチ)が承認されていないから。もし、これらが承認されたとしたら、「前頭側頭型認知症は増えている」として注目されることでしょう.。




はじめの症例は、「認知症=アルツハイマー型認知症」程度の漠然とした知識しか持ち合わせていなかった頃に遭遇した症例で、今からおよそ7年ほど前のことです。最近になって、たぶん前頭側頭型認知症(FTD)なのだと理解した過去の症例です。

次の症例は、たぶんFTDだろうとすぐに鑑別した現在進行形の症例です。「たぶん」と接頭辞(但し書き)をつけたのは、CT画像を観て「やっぱりね!」と裏付けが欲しいのですが、私は医師ではないですからそういうこともできず、「たぶん」としました。次の2症例は、症状をよく診ず、丁寧な問診もせず、CT画像に頼った診察をすれば、ATDと誤診するような症例です。



謎の症例・・・ たぶん前頭側頭型認知症

60歳代後半の男性、夫婦2人暮らし。初めて会ったのに、「あたたは立派な人だ。よく存じ上げてますよ」ととても愛想良くニコニコして話しかけてきたので、アルツハイマー型認知症(ATD)なのだろうと思いました。自立歩行程度のADLはあるのですが、彷徨くことはなくいつも同じ席でじっとしていました。だから、デイサービスで過ごす時間の大半は手のかからない人でした。ただ厄介で迷惑なのは、常に唾を床に吐き続けることです。この人は奥さんの介護を受けて、晩年に入院するまで在宅で過ごしました。

 ATDを支持する症状
  ・愛想が良く、取り繕いが多い
  ・鏡現象がある(鏡の機能が解からず、鏡に映った自分に話しかける)
  ・食事は介助が必要ながらも拒否は少ない
  ・いつもじっとしているから手がかからない

この人は数年前に他界したのですが、前頭側頭型認知症を詳しく知るまではATDなのだろうと思っていました。ところが、FTDを念頭に置いて振り返ってみるとATDではなくて、FTDだったのかもしれないと思うようになりました。
大切なことは、認知症タイプを鑑別することではなく、陽性症状や陰性症状で患者家族が困らないような治療をすることなのです。鏡現象を生じる程に高度の脳萎縮があるのですから、中核症状を何とかするよりも、周辺症状を抑えることに注力すればよいのです。

 FTDを支持する症状
  ・入浴時に介助を拒んで暴れる
  ・トイレに行くものの、便器外への排尿
  ・弄便(家具、壁などに便を付ける)
  ・所構わぬ唾吐き
  ・食事介助時に、口をすぼめる
  ・多幸的(易怒性はほとんどなく、どちらかというと穏やかである)
  ・送迎車の乗車、降車の声かけに従わないことが度々ある

この人は夫婦で同じ職場に勤めていて、私の母と同僚でした。元気に働いていた頃、奥さんの姿が見えないと探すことがあったようです。既知の関係だったから聞き出すことができたのですが、ちょっと目を離した隙に何処かへ行ってしまうこともあったようで、お昼頃に行方不明となり、夕方に警察に保護されたこともありました。

幸いにして晩年(70歳代半ば)の入院まで在宅で暮らせたのは、
 ・アリセプトを継続しなかったこと(一時期服用したが、効果がなくて中止した)
 ・積極的治療を望まず、薬を何も飲んでいなかったこと
 ・異食、暴言、暴力、唸り声がなかったこと
 ・夫婦とも70歳代で、介護者の奥さんが元気だったこと
 ・手はかかるものの、比較的穏やかなタイプの周辺症状であったこと
ということでしょうか。

この症例は、ATDのような・・・? FTDのような・・・? と、鑑別に迷う症例でしたが、よくよく考えてみると、どちらかにきれいに二分できるはずもないのが認知症です。生前診断がATDで、死後解剖でFTLDであったということもあるようで、困った症状をできるだけ速やかに、そして安全に鎮めてもらう」ことを目的とする治療を受けることができればいいのです。必ずしも、記憶機能の回復だけが認知症治療とは限らないのです。


おしゃべりな性格? ・・・ だけど前頭側頭型認知症
「うるさい!」 あまりにもうるさいから、誰もが「出ていってくれ!」と思う症例です。患者である入所者や家族が気の毒と思うよりも、お世話する施設職員の方こそが気の毒になるのです。
この人はショートステイ利用を経て入所となりました。【参照→認知症介護通信15/02/14
「家族が気の毒」ではなく、「施設職員が気の毒」となってしまいました。

初対面の時に、第一印象の「ピック感」を掴んでいたことと、FTLD検査セットからピック病(前頭側頭型認知症;FTD)なのだと確信していたので、「まあ、こんなものだろう」と傍観者でいたのです。

 FTLD検査セット
 ・利き腕はどちら? ・・・ 右よ、こっちの方が力が入る
 ・右手で肩を叩いて ・・・ 沈黙して無動
 ・「猿も木から落ちる」の意味は? ・・・ 無言
 ・「弘法も筆の何?」 ・・・ 無言


よもや面倒を看ることになろうとは・・・!
施設入所で縁が切れてホッとしたのは在宅のケアマネ、うるさくて手に負えないことから解放された家族。迷惑被害を被るのは施設職員。こういう構図が後を絶たないのが介護施設の実態なのです。


 FTDを支持する症状
 ・食事期間に食事を拒否しておきながら、「おにぎりを頂戴!」としきりに催促する。
 ・「水をくれ!」、「お茶をくれ!」と頻繁に催促する。
 ・済ませたばかりのトイレにまた連れて行くように頻繁に催促する。
 ・「アメを頂戴!」としきりに要求する(甘いモノ好き?)
 ・時々、歌い出して陽気に振る舞う
 ・臥床介助しても、なかなか寝ない。
 ・誰構わず、話しかける。
 ・職員を呼び止め、何度も同じことを言う、
 ・1人にすると、一段とうるさくなる。

こういうことが毎日続き、他の利用者の迷惑にさえなってきたので、コントミン(ウィンタミンと同じクロルプロマジン)がポンと1錠だされました。ところが運悪く、発熱を生じてしまったため服用中止になりました。せめて、朝4mg、夕6mgのさじ加減をして副作用を生じさせないように配慮しておけば、状況は違っていたかもしれません。

結局、入院治療することになりました。職員は皆、喜びました・・・・・「静かになる!」
静かな施設となった介護現場の平穏な日々は長くは続きませんでした。元気いっぱい、帰ってきました。即ち、入院の成果は何ひとつなく、治療失敗だったのです。

前頭側頭型認知症(FTD)であるにも拘わらず、アルツハイマー型認知症(ATD)との診断で、リスパダール、セロクエルが入院中に処方されていたようです。FTDへの第一選択肢はウィンタミン(コントミン)なのですが、初めに12.5mg錠が処方されて発熱のため再度使われなくなったのがまずかったでしょう。リスパダールもセロクエルも副作用が出た上に、効果がなくて中止になりました。
それで、最終的に頓服として就寝時にロヒプノールが処方され、退院して施設に戻ってきました。

入院加療はまったくの無駄だったことになります。理由として推測されること・・・
 ・FTDを診断できなかった
 ・入院中に症状をしっかり把握できていなかった
 ・第一選択肢であるウィンタミンの使い方がまずかった
 ・薬剤過敏であるかもしれない(但し、現時点でDLBを疑う徴候はまったくなし)
 ・私の観察による鑑別を看護師が無視した
ということは指摘しても妥当であるでしょう。

最終的にどうするか? これが重要!
 (1)ウィンタミンを施設天秤療法で調整する
 (2)フェルガードを家族に購入してもらう
 (3)我慢しながら介護する(威力業務妨害の被害者・職員虐待の被害者として)
結局の所、(3)の選択肢を選ばざるを得ない状況にあるというお粗末な顛末です()

「ここは医療機関ではない!」と言い出す職員はどの介護施設にも居るものです。この見識のなさが、結局は自分達の仕事をストレスに満ちた、無駄の多い現場に仕向けているのです。