2015/07/30

レビー小体型認知症の症例

介護者にとってストレスはつきもので、これはどのような職業でも遭遇する不可避なことです。現場で感じるストレスを、認知症タイプ別に分類してみました。やはり、認知症の陽性症状がストレスの主な原因となります。

 ・心配系ストレス
  レビー小体型認知症、脳血管性認知症のアパシーとうつ状態への心配による。
 ・イライラ系ストレス
  前頭側頭型認知症(ピック病)、アルツハイマー型認知症の陽性症状による。
 ・心配とイライラ混合系ストレス
  レビー・ピックコンプレックスの陰性・陽性症状が混在することによる。
 ・身体系ストレス
  全介助が必要で重い体重の人を介助する肉体疲労による。

認知症の中核症状である記憶障害・遂行機能障害は、加齢により高齢者ならば誰にでも生じることなのですから、それを補助してお世話するのは当たり前のことです。呆けても構わないのですが、家族や施設介護の職員に迷惑をかけストレスを与えることは避けたいものです。

どうやって避けるのか? 声かけ・接遇、環境調整などの方法(非薬物療法)だけで避けるというのはあまり現実的ではありません。疲弊するだけの徒労に終わるだけです。適切な治療こそ先に行われるべきであり、非薬物療法はそれからあとのことです。

レビー小体型認知症(DLB)は、レビー小体が脳幹や後頭葉に蓄積されたために生じるレビー小体病が原因の認知症です。アルツハイマー型認知症(ATD)に比べると進行が早いとされています。しかし、その一方でDLBだと気付くのに数年かかったという例もあります。典型的な症状は、幻覚(主に幻視)、食事でのむせ、歯車現象、薬剤過敏性などがありますが、これら典型的症状が揃う訳でもないです。

認知症は、キャラクター(個別の特徴的徴候)で分類すると分かり易いのですが、DLBの見た目・感じ方(フィーリング)は、キャラクター分類で、
 ・暗い雰囲気
 ・どことなくボーっとした感じ
 ・眠っているような目覚めているような感じ
 ・会話中に視線が合わない
 ・まじめな印象
ということがあげられます。「まじめ」というのは定義が曖昧なのですが、話し方がとても丁寧できちんとした日本語を遣い、礼節もしっかりとしています。戦前の厳しい躾・教育を受けた世代であるからなのかもしれませんが、「敬う」とか「尊ぶ」という言葉がピタリと当てはまる人柄が印象付けられます。

DLBの人には既知の「友だち感覚」というフィーリングを抱くことはありません。例え礼儀知らずの、敬語もちゃんと遣えない者がDLBの人に接していてもきちんとしています。笑顔も少ないですが、冗談も少ないです。年相応かそれ以上に衰えを感じるものの、どこかしら聡明さを感じることさえもあります。
病的な静寂・もの静かな様子がら心配せずにはいられないのがDLBであり、ストレッサーとなりうるのです。


DLBについては、 レビー小体型認知症(河野和彦著、フジメディカルビュー社刊)が、症例と治療について具体的かつ実用的でお勧めです。
DLB患者をもつ家族にとっては勿論のこと、認知症を広く学びたい人も読んでおきたい1冊です。

因みに、各認知症のタイプ別に少なくとも1冊は読んでおきたいです。1冊で広く浅く認知症全体を掴むことは重要不可欠ですが、個別に深く知るには個々の認知症毎に1冊というのもまた重要です。

認知症は、各タイプ別にきちんと分類して鑑別できる程に境界がはっきりしているとは限りません。ATDであったのが次第にDLB化してゆくこともあるのです。加齢につれて高齢者の脳には老人斑が現れるのですが、その老人斑を封入するのがレビー小体とされています。レビー小体は誰にでもあるのですが、その量が過剰に増えたためにDLBとして発症するか、パーキンソン病となるかの違いはあります。


レビー小体型認知症症例1

独居。この人に出会った当時、私はDLBをよく知らず、遅発性パラフレニーだと思っていました。デイサービスに来た時には、とてもおとなしいながらも周囲の顔見知りの人達と関わり合い、普通に会話も交わしていました。傾眠も、妄想もありません。

ある時、自宅を訪問すると上がっていくように勧められて話し相手をしました。やがて話しが進むにつれて、分かってきました。「私が留守中に誰かが侵入している」と言うのです。
そして、「娘が財産を狙っている」、「隣近所の宗教団体がこの家を盗ろうとしている」などと、あたかもすべてのことが真実であるかの如く、確信を持って話すのです。

台所のガスレンジのグリルを指して、「ここに小さい虫がいる。娘が来て置いた証拠です」と言うのです。実際には、シャープペンシルで突いた程度の鉄さびがあるだけなのです。
極めて普通の老婆にしか見えない人なので、よく話しを聞かないと、見た目だけではすぐにDLBだとは気付きにくい症例です。職場の異動があり接触がなくなったので、歯車現象、鉛管様筋固宿があったかどうかまでは分かりません。DLBだと確信を持ったのは、ずっとあとになってからのことなので、今どんな暮らしをしているのかは分かりません。

 主な症状
  ・幻覚(幻視)
  ・被害妄想

レビー小体型認知症症例2

家族同居。体がふらつくとのことで脳神経外科をひとりで受診(異常なし)。癌ではないかと心配になり、受診するも異常なし。とにかく自分の健康・身体状態に心配が多く、心気症なのだろうと思っていました。電話での会話で、アルツハイマー型認知症を窺わせるようなもの忘れによる、同じことを何度も言う(訊く)ことはありません。

やがて表情が乏しく、どことなく虚ろな眼差しとなりました。孫を病気で失ったこともあり、うつ状態なのだろうと私は思うようになりました。心療内科にひとりで通院していましたが、うつ病とは診断されていないようでした。抗うつ薬の処方はなく、軽い向精神薬と睡眠導入剤が処方されているくらいでした。ふらつくという訴えが頻繁にあったのですが、ちゃんと歩いていましたし、外出も独りでできていました。

そんなことが5~6年続いて、大きな病院で「認知症」と診断されました。精密な検査ということで、大学病院で画像検査を受けたのですが、ただ「認知症」と言うだけでどのタイプの認知症なのかまでは告げられることはありませんでした。

 主な症状
  ・心気症のような心配
  ・DLBに先行するうつ状態
  ・幻覚(幻視)


この症例では、総合病院・大学病院・療養型病院と、3つの病院で「医療連携」があったことになります。けれど、認知症にはまったくの無力であり、まともに機能しいないと断罪せずにおられません。コウノメソッドマニュアルには、「大病院や大学病院には行くな」とさえ助言しているのですが、まさにその通りの実例となりました。 


更に不運は続きました。アリセプト3mgが大学病院によって処方されたのです。数ヶ月後には嚥下不能となり、経管栄養となりました。アリセプトを中止すること、フェルガードを服用するように再三助言したにもかかわらず、聞き入れられることはありませんでした。
一旦入院してしまうと、それが不適切な治療であっても中止させることが如何に困難であるかを思い知らされました。


経管栄養開始から約1年後、「早過ぎる死」となりました。棺に入ったその人の肌はきれいで色艶良く、今にも目覚めて起き上がってもおかしくはない状態でした。亡くなる数日前に見舞いに行った時には、ちゃんと私のことを覚えており、私の名を呼んでいました。寝たきりでしたから、四肢には拘縮がありましたが、歯車現象はありませんでした。

以上のように、DLBもまた症状が多彩です。幻覚、妄想、歯車現象などの症状が揃うことはありません。アルツハイマー型認知症よりも進行が早いというのが印象です。進行が早いというのは、症状の悪化と同時に寝たきりにもなりやすいことを意味します。心配になることも、ATDの比ではありません。