2015/05/02

認知症介護通信15/05/02

日本全国どこにでもある認知症医療の縮図

ある日、エレベータのドアが開き、新しくショートステイ利用のためデイルームに入ってきた人(Yさん、女性)を見て、「この人は前頭側頭型認知症(ピック病)だろう」と直感が働きました。何故そのように鑑別できるのかと言うと、「勘が働くからです」としか言いようがありません。

「ピック病の症状と治療」を何度も何度も繰り返し読んで、実際にピック病の人を何人もお世話をしているうちに、「勘」が身に付いてきたというより他にありません。勿論、CT画像を見ることもありません。

「勘が働く」とは、「この人、なんとなく妙な感じ!」という第一印象のようなものです。

 ・明るく愛想よく元気な感じ ・・・ アルツハイマー型認知症
 ・ボォ~とした感じ ・・・ レビー小体型認知症
 ・愛想も常識もなくどことなくヘンな感じ ・・・ 前頭側頭型認知症
というように大体のキャラクターで見分ければよいのです。

極めて大雑把なのですが、これで「仮鑑別」しておいて、確証を掴むべくお世話しながら言動をよく観ていくうちに分かってきます。但し、認知症は必ずしも各タイプがクリアカットされる訳ではなく、複合していることもありますからその点は注意が必要です。

Yさんは、前頭側頭型認知症にもかかわらずアルツハイマー型認知症と診断され、アリセプト(3mg)が処方されている、極めてお粗末で迷惑な症例です。あまりにもこういう症例が後を絶たないので、レセプトの関係から「本当は前頭側頭型認知症と診断してはいるのだけれど、書類上はアルツハイマー型認知症としている」のだろうと思ってしまう程なのです。Yさんの主治医(またあの病院か!)に対しては、そのようにとても好意的に解釈しておきましょう(かなりきつい皮肉です)

もうそろそろ、前頭側頭葉変性症(FTLD)についてしっかりと学んで、治療能力を習得していただきたいものです。この病院(老健も含む)から来た施設入所者とショートステイ利用者を調べると、前頭側頭葉変性症(FTLD)を的確に診断している率は0%なのです。一応CTも設備されているのに、お粗末なことです。

アルツハイマー型認知症よりも、前頭側頭型認知症のことを深く学ぶ意義は大きい
前頭側頭型認知症を診断できる医師は、アルツハイマー型認知症も診断できる

「治療してナンボ」の医者なのですから、アリセプトで陽性症状が極めて酷くなったので、アリセプトを中止するくらいのインテリジェンスはないのでしょうか。はっきり言って、ここまで酷いとそれはもう犯罪レベル(威力業務妨害罪)と非難されても、何も言い訳できないでしょう

なにしろ、このYさんの滞在期間は、施設職員(日勤帯と夜勤帯)は多大な迷惑とストレスを受けたのですから。施設の同僚職員は皆、「まいったぁ~!」と異口同音ストレスを受けて怒っておりました。そして、「家族は大変だろうね。でも、もう来るな!」と。日頃は温厚な私も怒り爆発で、「治療して来い! いい病院を紹介してやる!」と暴言吐きまくりでした(笑)
 

Yさんの症状は次のとおりです。
 ・語義失語はなく、こちらが言っていることは理解している。
 ・自分の意に添わないことには猛烈に逆上し屁理屈を並べて怒る。
 ・入浴を拒否して大暴れする(結局、職員4人がかりで入浴させた)。
 ・目的もなく、急に立ち上がり彷徨く。
 ・夜眠らず、他の入所者に声をかけて睡眠の邪魔をする。
 ・尿失禁して、ズボンと紙パンツを人前で脱ぎ出す。
 ・トイレに連れて行こうとすると、怒って抵抗する。

医者は、自分が安易(?)に処方したアリセプト(3mg)で、これだけ迷惑をかけているということを反省しなければならないのです。

正直なところ、ここまで陽性症状が酷いとは予想してはいなかったのですが、Yさんのショートステイ初日、勤務を終えた私は看護師に、Yさんはアルツハイマー型認知症ではなく、前頭側頭型認知症。アリセプトは合わないから、隣の病院に上申して服用を中止させて欲しい」と言ったのですが、一蹴されました。「私はそういうことはしません!」と。(やっぱり・・・ 実はこういう水面下でのバトルを3年以上も前からくり返している(泣))

何処を見て、何のために、誰のために仕事をしているのやら・・・!? 
やはり、下図のように認知症はフィードバックループから成る情報系をしっかりと組み入れたシステムで、組織一丸となって取り組まないとダメですね。

家庭ーかかりつけ医、有料老人ホーム、グループホーム、老健、特養と、認知症患者の居る場所(形態)は違っていても、上図のような「情報連携」ができなければ、とてもではありませんが医師単独の力量だけでは認知症は治せないのです。ある意味・・・、
・医者を信用するな、
・医者に治療を任せきりにするな、
・相互理解と協調の元、認知症はシステム総合力で治せ、
ということなのです。

どうも、このことが分かっていない人が多すぎるように思えるのです。これを「無責任体質」と言ってしまえばそれまでなのですが、そもそも適切な治療プロトコルを核とする「認知症教育」という基本が欠如していること自体にも問題があるのです(実は、私も「認知症教育」なるものをまったく受けたことがないのです)。
基本的に認知症教育というのは、認知症を熟知している治療経験の豊富な医師が講師役となって実施するのが最良の方法でしょう。実際には、まだまだそのような医師は少数というのが実情なのだと思われます。


真に役立つ認知症教育なし。あるのはお粗末な治療と、その後始末として不当な負担を強いられるだけの介護現場。その結果、「認知症は治らないのだから、仕方ない」というネガティブな認識の「刷り込み」だけが教育の成果として積み重ねられていく。認知症患者が哀れですが、看護・介護する職員もまた哀れなものです。

Yさんの症例で始末に悪いことがもうひとつあります。それは、Yさんはデイサービスではなく、デイケアも利用しているということです。デイケアには、専任の医師が常駐しており、他に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員も居るのです。これらの職員は一体何をやっているのか、治療がおかしいことに気付いていないのか、気付いてはいるのだけれど医師に言えないのだろうか、という極めてシンプルな疑問です。

実は気付いてはいるのだけれど、「言うだけ無駄。だって、医者は認知症を治せないのだから」というのが実態であったりして・・・ 
これが日本全国、どこにでもある認知症医療と介護の現実でしょう。「でしょう」と控えめに言っているのは、日本全国の施設をまわって実態調査をした訳ではないから、そのように記しただけです。



たぶん医療も介護も基本的理念として掲げ、スタンスも目指すところも同じなのでしょう。医療のことも介護のことも、私はまじめに勉強したことがないので、字面を追ってそのまま解釈してるだけなのですが・・・
日本老年医学会が策定したガイドライン「高齢者に対する適切な医療提供の指針」に以下のような記述があります。「医療」を「介護」に置き換えると、目指すところも本質は同じはずです。



パブリックコメントを出しました

上記のようなとても迷惑な症例には度々遭遇しているので、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」に関するパブリックコメントの募集」(日本老年医学会)に対して以下のコメントを出しておきました。権威はおろか、肩書きも、発言力も何もない者なので、ちっとも役には立たない(現場の声は届かない)のでしょうが、それでも黙っている訳にもいきませんから。

  関連:認知症医療村はどう責任をとるのか(1)(2)


あるブログで私の書いたコメントに対して山岡先生がコメントをお書き下さいました。先生もこのブログをご高覧いただいているとのことなので、ここでお礼を述べさせていただきたいと思います。ある意味、認知症最前線の現場(特養)に居るからこそ伝えられる現実があります。

私は選挙に行きますが政治にはあまり関心がありません。専らの関心は、「今、目の前に居るばあちゃんの認知症を何とか治して欲しい」ということに尽きます。だから、組織上の正式ルートからも、水面下の非公式ルートからでも手を尽くして可能な限り働きかけるようにしています。これがまた、なかなか思うようにコトが運ばないのです。もう3年くらいの時間を費やしているのですが、やっと「コウノメソッド」、「フェルガード」の名前くらいは覚えて頂いた程度なのです。

上に挙げたパブリックコメントもまた現場から声をあげる、そのひとつです。思うようにコトが運ばないなんてこと、社会では日常茶飯のことですから、自分にできることを地道にやって行きたいと思っています。
また、そういう目的意識をしっかりと持っているからこそ、きつい割には報われることの少ない介護現場に立ち続けることができるのです。愚妻から「趣味だ!自己満足だ!」と揶揄されても(笑)。



遠慮して「自主規制」してしまってはダメですね。萎縮して正しいと信じることを言えないのもよくありませんね。古賀さんを見習いたい。