2015/03/28

認知症介護通信15/03/28

システムとして捉える ・・・ たぶん私の原点

NHK社会部の記者であった柳田邦男氏が航空機事故の真相を深く追った「マッハの恐怖」(フジ出版)を著したのは1971年のことです。
事故に潜む共通する原因は、「ヒューマン・エラー」として単に個人の人為的ミスに帰するのではなく、システム全体に潜む共通の因子を追求することで原因が解明され、対策を講じることができる。
続いて出版された「続 マッハの恐怖」。2冊共読んだのですが、そこに展開された主張はずっと私の脳裏に刻み込まれているのです。

だから思うのですが、今日直面している、後を絶たない極めて深刻な「認知症医療過誤」の原因は、単に医者の勉強不足という個人的力量不足にのみ原因を訴求するだけではなく、認知症医療というひとつのシステムに潜んで共通する原因を明らかにして改善することに、真の対策があり再発防止の鍵があると考えるのです。

・・・なんて、どこかの全国紙の社説みたいなことを書きましたが、ここから先は全国紙の社説では諸般の事情により書けないでしょうから、代わりに書いておきます。


   認知症医療村を解体することで、真に役立つ認知症医療が確立される   
 高騰する医療費の抑制と、衰退し続ける日本経済の立て直しに寄与する 

分かり易くするために、大きい字で書いて赤色のマーカーを付けておきました。「認知症医療村」とは、製薬会社・大学病院・学会・マスコミなどが癒着して構成する、認知症患者と家族の生活を顧みない複合体のことです。これに政府が荷担しているのか、それとも「お役所仕事」の習性が災いして単に踊らされているだけなのか? これは分かりません。



鑑別に迷ったけれど、前頭側頭型認知症と分かった症例
夜勤入りの夕方のことです。ショートステイ利用予定になかった見知らぬ認知症の人が居ました。事情を訊くと、家庭介護者の都合で急にショートステイ利用が必要になったのですが、どの施設からも受入を断られてウチの施設に急遽決まったとのこと。

【第一印象】
 ・ADLのしっかりした、ごく普通の老女(要介護2)
 ・礼節がそこそこ保たれている
 ・ショートステイ利用者との会話を聞いていると、少し一方的に自分の希望をしゃべる
 ・「家に帰りたい」と言って、ソファーになかなか座らない (これは誰にでもあること)

私はこの利用者の居るフロアとは別の担当なので、夕食後に様子を訊きました。
【夕食から就寝までの状況】
 ・夕食はあっという間に済ませた(良く噛まずに掻き込みか?)
 ・一品ずつ食べたのか、ご飯やおかずを交互に食べたのかは不明

【就寝後】
 ・入眠することなく、廊下を行ったり来たりする
 ・他人の部屋に入ろうとする
 ・トイレで紙パンツの交換をすると、激しく抵抗して拒否する
 ・深夜だというのに、時間もわきまえず大きな声を出す
 ・一睡もせず、朝を迎える

実は、「他の施設で受入を断られた」と聞いたことと、初対面の段階で「ピック病かも!」という勘を働かせていていました。ただ、鑑別の確信を掴めなかったのは、顕著なピック感がなかったからです。翌日、夜勤明けの際に、「迎えに行った車からなかなか降りなかった(指示に従わない)」、「施設の玄関に入れるのに抵抗して苦労した」と聞いて、ピック病を確信しました。
【注記】上記の文中でピック病を鑑別するポイントの所を、   で示しています。

多分こういう症例は、本来の専門の診療科目の片手間に認知症を診ているか、勉強不足の医師であれば迷うことなくATDと診断してしまうでしょう。そもそも、勉強不足であれば迷うこと自体ないでしょう。何故なら、FTDを知らないのですから。
そして、「認知症=ATD=アリセプト」という誤診と誤処方で家族介護を困難な状況に陥れてしまうのです。

ショートステイ利用時に交付された「情報提供シート」なる怪しげな書類(あまり当てにならない)を一瞥すると、案の定「アルツハイマー型認知症」と記されていました。この情報提供シートに記された認知症に関する限りは何の役にも立ちません。殆どの場合、私が鑑別して診断を訂正することが多いのですが、FTDについては全症例とも診断の誤りを訂正しているのが実情です。

何故、このような鑑別をCT画像を見ることもなくできるのか。 
それは、「ピック病の症状と治療」(フジメディカル出版)を繰り返し繰り返し読んで、認知症のタイプを問わず、認知症患者から謙虚な姿勢で学び続けてきたからです。時には、この本に記された1~2行の記述と、介護現場で見る認知症患者の些細な症状さえも見逃すことなく照らし合わせる作業を続けてきたからです。

そして、驚いたことに、アルツハイマー型認知症(ATD)のことが理解できるようになったのです。考えてみればそれは当然のことで、ATDは特徴が無くてつかみ所がない面もあり、「除外診断」によって決めるとされています。


だからなのでしょう、私がFTDと鑑別した認知症患者全員がATDと診断されているのです。また、前頭側頭葉変性症(FTLD)の下位分類である大脳皮質基底核変性症(CBD)や進行性核上性麻痺(PSP)もまた全員が適切に診断されていません。

先日、このブログの更新を楽しみにして下さっている方からメールを頂戴しました。彼女もこの「ピック病の症状と治療」を購入して読んでおられ、お気に入りなので河野先生にサインをして頂いたそうです。私もこの本がお気に入りで、サインを頂きました。

以前、私はこの本について、アマゾンの書評に次のようなことを書いたのですが、このブログに転記しておきます。初めは、医師ではないコメディカルの方々にお勧めするのはどうかと思ったのですが、彼女のように医師ではない方も購入されていることを知り、とても心強く思いました。

こんなに立て続けにFTLDの人が目の前に現れるのですから、コメディカルの方々もこの本を読んでFTLDをしっかりと勉強して欲しいと思います。
アルツハイマっぽくない、レビーっぽくもない、血管性でもないとすれば、FTLDを疑ってみるという視点を持つのはどうでしょう(勿論、混合型もあります)。 認知症は、「遂行機能と社会適応能力の障害(「血管性認知症」ワールドプランニング刊)とする目黒謙一先生(東北大学)の指摘に最も合致するのがFTLDではなかろうかと思っています。実際、医療現場ではなく介護現場に居て、FTLDの人が未治療であったり、アルツハイマ型認知症と診断され不適切な処方がされている事例に遭遇する度に、「遂行機能と社会適応能力の障害」という言葉を思い知らされるのです。 はっきり言って、こういう不運なケースに遭遇してしまった人ほど迷惑なことはないのです(同時に、認知症医療への失望と怒りも覚えます)。 とにかく介護で手がかかり、ストレスとなるのです。 それは、アルツハイマ型認知症の徘徊やレビー小体型認知症の幻覚妄想の比ではありません。
「ピック病」は1996年にマンチェスターグループにより、FTLD(前頭側頭葉変性症)分類に組み入れられたのですが、河野先生の言う「ピックっぽい感じ」を掴み適切な処方がされると、どれだけありがたいことかと実感するのです。 認知症治療は歴史が浅いという時代背景から仕方ないと言わざるを得ない一面もありますが、CBD(大脳皮質基底核変性症)PSP(進行性核上性麻痺)を統合失調症と診断された人を実際に看る(「診る」ではない)度に心が痛むのです。 これらについても、この本に記載があります(p.129p.135)
 それでは、前頭側頭葉変性症の症状の代名詞でもあるピック病、「ピックっぽいね」という感覚をどうやって掴むのか。 目の前にいる患者さん(私の場合、施設の利用者)が教えてくれます。 実際、私の場合CT画像を観るでもなく、家族から問診するでもなく、目の前に居る人が教えてくれたのです。 そして、その裏付けとなったのが本書なのです。 冒頭に述べたことに相当することは、「ATDFTLDの相違」(p.93) 「FTLD診断の道筋」(p.143)に記載があります。
 今ならまだ医師が「知りませんでした」で通用するのかもしれませんが、明日の診療からでもこの「ピック病の症状と治療」を実践して頂けるなら、それは大きな社会貢献と言っても決して過言ではないと思うのです。