2015/02/19

認知症介護通信15/02/21

同じことをくり返し言う

「同じことをくり返し言う」、あるいは「同じことをくり返し尋ねる」と聞いて、アルツハイマー型認知症(ATD)を思い浮かべることでしょう。記憶障害のため、さっき言ったばかりのことを何度となくくり返しいうのです。

「おしっこ、おしっこ!」、「うんこ、うんこ!」とトイレに連れて行くことをくり返し要求する。特に用件がある訳でもないのに、「ちょっと、ちょっと!」と人を頻繁に呼び止める。「今日、何曜日?」と1日に何度も尋ねる。「弁当まだ?」とか、「お昼ご飯まだ?」と何度も尋ねて確認する。
これらは、「アルツハイマー型認知症の人が同じことを言う」のとは、症状のニュアンスが異なるのです。同じ行動をくり返す常同行動です。ピック病(前頭側頭型認知症)の症状なのですから、

 排泄欲という人としての基本的欲求を尊重しましょう
 寂しいのだから、傍らに寄り添って話しを聞きましょう

などという、きれいごとを並べたケアプランなどを考える以前のこととして、ピック病と鑑別して治療を受け、少なくとも、

 ウィンタミン(朝:4mg + 夕:6mg)

という薬物療法で困った陽性症状を抑えることの方が優先されるべきなのです。


こういう治療を受けていない認知症の人には、(気の毒なのですが)気遣いも時間も使うことなく(気持ちのゆとりもなく)適当にあしらって、親身になって関わり合わないようにしています。とはいうものの、完全に無視してしまうと「ネグレクト」となってしまうので、「ハイ、ハイ」と返事だけはしたり、手を振って動作で応えるだけはするようにしています。

 アルツハイマー型認知症の場合 
 ひとつの連続する会話の中で、同じことを何度も繰り返し言う。

 ピック病の場合 
 1日に何度も同じことを繰り返し言う。大きな声で叫ぶように、脅迫的に言う。

「同じことを何度も言う」と、ひと言で表現しても症状はまるで異なります。認知症に詳しくない医師が家族への問診で聞いたら、アルツハイマー型認知症との診断材料のひとつになるかもしれませんが、まったく異なるタイプの認知症の症状なのです。もっとも、前頭側頭型認知症(ピック病)を知らない医師は、「アルツハイマー型認知症か? 前頭側頭型認知症か?」 と診断を迷うことなく、アルツハイマー型認知症と診断するのでしょうけれど。


笑って許せる症例
ピック病の症状のひとつに、「脱抑制」というのがあります。ふざけた行動、母親の乳房を触ったり尻を突く(「ピック病の症状と治療」、p.22、フジメディカル出版)といった症状(行動)です。あまり遭遇することのない症状なのですが、最近これに相当すると思われることがありました。

Tさん(女性、90歳)はおとなしくて、ほとんど手のかからないタイプのピック病です。もしかすると、年齢の割にとても元気が良いのでAGD(嗜銀顆粒性認知症)なのかもしれません。声かけして、挨拶に手を差し出して握手を求めると、私の腕を掴んで噛みつくような仕草をします。勿論、本当に噛みつきはしません。

ある日のこと、トイレに誘う声かけをすると、Tさんは「お金をちょうだい」と言うのです。口数の少ない人なので私は驚きました。「お金をどうするのですか?」と、私が尋ねると彼女は言いました。
「お金をくれたら、一緒に寝てあげる!」
ピック病(あるいはAGD)なので、「脱抑制」だと直感しましたが、思わず笑ってしまいました。もし、家族が傍らに居てその様子を見ていたら、赤面したことでしょう。


問題集を解くかのようにQ&A

「コウノメソッドでみる認知症Q&A」(日本医事新報社)を2回目の精読中です。コウノメソッド実践医からの質問に、河野先生が答える一問一答集ですから、どのページからでも読み進めることができます。
   質問:問題 
   回答:正解 
   解説:解説 
という構成なのですから、これはもう数学や物理の入試問題の参考書で勉強するのと同じですね。但し、それが唯一絶対の正解なのかというと、必ずしも唯一とは限らないこともあるかもしれません。何故なら、認知症患者それぞれに個人差、症状の違いがあるのですから。

数学や物理などの問題であれば、必ず唯一の正解に辿り着くようになっています。一方、認知症の治療の正解、即ち「効果あり」という正解はいつでもすぐに得られるとは限りません。だから、興味の尽きない現象だとも言えます。「現象」と例えるのは、認知症を心理学的な視点で見ていない私の習性です。

何故、化学や地学に例えないのか・・・ 理由は簡単です。化学は苦手科目で、地学は履修していないから。国語は苦手なので、文学的にも捉えていません。

経験に基づいて何冊、何十冊の本を書き、それが何万部、何十万部と買われても、「エビデンス」とは言わないとされているのです。エビデンスとは、「この治療方法が良いと言える証拠」のことです。医療分野では、たくさんの患者に実際に使って試す調査研究をして、薬や治療方法がどれくらい効果があるのか確かめています。その調査研究によって薬や治療方法が良いと判断できる証拠のことです。

実はこのエビデンスという言葉に私は弱いです。しかし、大規模実証実験という言葉にはもっと弱いです。30年にわたり、約35,000人にも及ぶ膨大な(多くの失敗ともっと多くの成功)治療経験から導き出された結果が「コウノメソッド」であり、大規模実証実験の成果なのですから、素直に事実として受け止めておくのが賢明なのだと思います。

同等規模の治療経験がないまま、「エビデンスではない」と決めつけるのであれば、反証する「エビデンス」を示して、論文にして発表してみては如何であろうか。