2015/01/10

認知症介護通信15/01/10


2015年 認知症の旅
正月元旦からインフルエンザが施設入所者にも職員にも蔓延していててんやわんやの大忙しである。法定基準をいくらか上回る陣容で介護していても、人手が足りないことに変わりない。せめてあと1人増員されて4人体制になればよいのだが、経費の関係からか内部留保アップの目的だけからなのか、求人を出しても人が集まらないだけなのかは知らない。そういう状況にあって、2人で14人のお世話をする非常事態は辛い。

入所者に加えて、ショートステイ利用者が認知症の周辺症状で忙しさに拍車をかける。邦楽のBGMが館内に流れ、いくらか正月らしき雰囲気に包まれている中、館内放送があった。「Hさん、そちらに向かっています。」 回廊式の廊下を独りで徘徊しているから注意するようにという業務連絡である。見守りのために徘徊に付き添う余裕すらないのである。

Hさんは、ただのアルツハイマー型認知症(ATD)である。アリセプト+メマリーの影響で「陽性症状」が酷いだけである。そのため、徘徊が酷くなっている。

【ここからSFモード】
2015年、地球を周回する資源探査宇宙ステーションは未知のエイリアンからの侵入を受け、船内で攻防が展開されていた。デメンティア星からの襲来とされているが、まだよく分からないことも多い。
 


乗組員A:「艦長、エイリアンが第1ブリッジに接近しています。」
艦長:「乗組員全員、認知症スコープを装着しろ。」
艦長の指示で乗組は認知症スコープを装着した。

「認知症スコープ」とは、認知症鑑別を瞬時に行う装置のことである。装着してエイリアンを見ると、ピックスコアとレビースコアがビューファインダーにスーパーインポーズでデジタル表示される。抗認知症薬と向精神薬の作用/副作用を分析して表示される機能も標準装備されている。私は「認知症スコープ」を使わなくても、認知症を鑑別できるのでこのスコープは要らない。


乗組員B:「エイリアン接近を目視確認した。」
乗組員A:「目視ではダメだ。認知症スコープで確認しろ。」
乗組員B:「認知症スコープON。ピックスコア:0、レビースコア:0です。」
乗組員A:「ATDだろうな。Mモードに切り替えて薬物反応を見ろ。」
乗組員B:「アリセプト反応ポジティブ、メマリー反応ポジティブです。」
乗組員A:「艦長、第1ブリッジでは防戦不能です。乗組員が足りません。」
艦長:「第1ブリッジ、防御壁閉鎖せよ。」
乗組員A:「防御壁閉鎖完了。」
艦長:「これでエイリアンの行動範囲が暫くは狭まるだろう。」
【ここでSFモード終わり】

ドンと鈍い音が響いた。私は見守りをしながら疲れのためうたた寝していたようだが、防火扉の閉まる大きな音で夢から目が覚めた。徘徊のルートを狭めるために、やむを得ず防火扉を閉めたのである。「認知症スコープ・・・、皆に配りたい。医者にも!」



介護現場では転倒や褥創のことにはやたらと神経過敏になることはあっても、認知症のことには鈍感で疎いことがよくある。たぶん、よく分からないこととして関心が薄いのであろう。
「アルツハイマー型認知症」も「レビー小体型認知症」も「前頭側頭型認知症」も「血管性認知症」も皆まとめて単に「認知症」なのである。

だから、認知症の周辺症状を、性格に修飾された言動、排泄(特に便秘)、環境の変化を原因としてしか観ない傾向にある。これらは決して誤りではないが、不十分な理解の仕方である。服用している薬の作用/副作用の視点からも認知症を観ることが重要なのである。
介護現場で認知症の人と、お世話する職員/スタッフの動きをつぶさに観ていると、下記のことが分かる。
 ・転倒事故のないように、リスクを事前に察知して防止に努める。
 ・異食のないように注意を払う。
 ・誤嚥のないように細心の注意を払い食事介助する。
 ・大声や暴力で他の利用者が不穏にならないように気を配る。

これらは当然のこととして、必要十分条件を満たすかどうかはともかく励行していることである。それでも事故は起こるし、不穏になって荒れる時には荒れるのである。性格、体調、環境などの因子で認知症の周辺症状を理解していると仮定して、それですべてが説明できるのか? できないのである。
それでは、どうやって理解できるようにすればいいのか。「認知症スコープ」を入手すればよいのだが、そんなモノは売っていない。類似するモノがもしあるとすれば、CTスキャナかSPECTであるが現実的ではない。
脳萎縮や脳血流画像を見ても、100%に近い精度で鑑別できる訳ではない。画像診断はあくまでも補足的ツールなのである。画像診断装置がなくても認知症を診ることはできる。


ということは、適切な知識があれば認知症を医師でなくても鑑別できるのである。ここで「診断」と言わずに「鑑別」と表すが、医師でなくてもちゃんと正しく認知症を鑑別できればそれは「診断」に等しい。

コウノメソッドでは、画像診断装置を用いなくても認知症を診断できるように設計されている。だから、「医師でなくても、85%の精度で認知症を鑑別できる」という。その方法を身につけるには、以下に挙げた書籍で認知症とその治療方法を学べばよい。症例と治療例が具体的に記載されており、認知症を深く学べるようになっている。
 ・コウノメソッドでみる認知症診療、日本医事新報社、2012年10月17日
 ・コウノメソッドでみる認知症処方セレクション、日本医事新報社、2013年11年22日
 ・コウノメソッドでみる認知症Q&A、日本医事新報社、2014年12月5日
 ・レビー小体型認知症 [改訂版]、フジメディカル出版、2014年12月5日
 ・ピック病の症状と治療、フジメディカル出版、2013年5月31日

認知症だけが介護ではないが、必須課題であることに間違いない。介護はただでさえ過重労働でストレスの多い仕事である。なんでもかんでも薬で解決できる訳ではないが、薬に頼ることで介護が楽になるのであれば、それを選択しないというのは現実的ではない。

これらの書籍をすべて読んでみた。そして、施設入所者の認知症をよく観察し続けたのだが、ひとことで言えば、「介護には実に無駄が多い」という現実に思い知らされるのである。その無駄の原因を突き詰めていくと、治療がまずいということに気付く。

「認知症を制する者、介護を制する」などと妄想を膨らませてしまうが、「ピック病を制する者、介護を制する」とも言える。それは、認知症の陽性症状を制することに他ならない。アルツハイマー型認知症のもの忘れは、クローズアップされるには小さな症状に過ぎない。