2014/12/04

コウノメソッドでみる認知症Q&A

「コウノメソッドでみる認知症Q&A」(日本医事新報社)が発行された。前著「コウノメソッドでみる認知症診療」、「コウノメソッドでみる認知症処方セレクション」に続く第三弾である。これら前2作を読んでいた私には、それで十分だと思っていた。

何故なら、私は医師ではないのだから直接的に治療に関わる訳でもなく、従ってコウノメソッドを学んで介護現場で認知症を鑑別するに十分なだけの知識は既に身につけていると思っていたからである。

本書を手にするまでは、タイトルに「Q&A」と冠せられているのだから、単に質問と回答の羅列集なのだろうと思っていた。
しかし、その予想は、本書を手にしてパラパラとページをめくり、「はじめに」を読んだだけで覆された。

第3弾となる「コウノメソッドでみる認知症Q&A」では、これまでに主にコウノメソッド実践医から受けた実際の質問をベースにして筆者が答える形式で、筆者がどのような思考回路のもとに、複雑な処方を瞬時に考え出しているのかといった処方理論などを隠さずに公表しようとするものです。(「はじめに」より引用)

データ(data)の集積と羅列は単なる情報(information)になることはあっても、それが真に有益なこととして活用できるとは限らない。インテリジェンス(intelligence)という情報にまで進化させることができるかどうかは、そこに確固たる哲学に基づく思考が貫かれているか否かによるものである。

洗練された最終結果に到るまでのプロセスは、公式を導き出す証明の手順に似ている。思考過程を追って手順を踏むということは、理解を助けてくれるしより一層理解を深めてくれる。第3弾「コウノメソッドでみる認知症Q&A」は、そういうインテリジェンスを随所に盛り込んだ本なのである。


以下、「はじめに」より転記引用
医学書には3つのタイプがあるのだろうと思います。

1つは疾患の発見から定義,分類までもれなく書かれてあり,医師として一度は通読しておかなければならないタイプの本です。これは医学生のときに読まなければならないものでしょう。筆者の個人的な感想を述べれば,このタイプの本(いわゆる成書)は,定義や分類のあとに書かれている治療の内容が浅いことが少なくなく,そこからは時に患者や医師を突き放すような冷酷さを感じます。

多くの非専門医は,薬剤の一般名を書かれてもピンとこないし,具体的な用量が書かれていないとすぐには利用できません。また「〜という試みがなされている」とか「治療法はない」などと書かれても,患者は一向に助かりません。実地医家がその本を読む価値とはいったい何でしょうか。一般教養でしょうか。

2つめのタイプは,百科事典のように,通読はしないけれども困ったときに短時間で疑問に思った事項や医学用語がわかるというものです。これはいかなる臨床医も1冊は手元に置いておきたいもの,必要なものでしょう。また医学的な原稿を執筆する者にとってもかかせない基幹知識となるものでしょう。

3つめは,世の中が一番必要としている本,つまり治療法に関する医学書です。言うまでもなく,医療の目的は診断ではなく治療です。治療という目的がなく行われる診断過程があるとすれば,それは医療費や患者の貴重な時間を浪費するだけのものです。
基礎研究に携わる研究者が病理診断の究極的な議論を続けるのは大切なことですが,その議論を臨床に結び付け,なおかつ治療に直結させる仕事をしている医師が少なすぎるように感じます。

筆者は,その仕事をしている途上にあります。すなわち,現時点で治療法の決定に役立たない鑑別診断(たとえば異常蛋白の分類)はいったん横に置き,病理脳から波及してくる患者の症状(output)を分類して,それにリンクした処方セットを推奨するという仕事です。症状に対して処方すべき薬剤を明確に示すことで,画像機器なしで,実地医家も現場でパニックに陥ることなく,スムーズに第一選択薬が何かがわかるようになります。しかも,その選択が高い改善率を生み出すことは,筆者が既に数万人の患者で確認しています。

新薬が出ると,その効能が大いにアピールされますが,その後深刻な副作用が知られてトーンダウンすることも多々あります。従来薬にも良薬は多く存在します。副作用の強さを考えると,むしろ古くからある薬のほうが安心して使えるといった場合もあるでしょう。
処方経験数が増えると,新薬の“メッキの剝がれ”がよく見えてきます。新薬開発では,偶然化合された物質を動物に投与して,偶然見出した作用を効果・効能とする場合も少なくありません。当然,合わない患者も現れます。

筆者の認知症薬物療法マニュアル「コウノメソッド」は,
1.確固たる処方哲学,
2.各病態,各疾患における推奨順の薬剤処方公表,
3.簡便な診断ツール,
からなっています。

1.処方哲学は,介護者を楽にする処方が最優先されること(介護者優先主義),副作用の予防(家庭天秤法:抑制系薬剤の服用量は介護者が調整する),健康補助食品の活用の三本柱からなっています。

2.学会などの団体が作成する薬物治療ガイドラインは,具体性に乏しく,また必ずしも改善率が高くないもの,副作用が少なくないものが推奨されていることがあります。また,具体的な用量が書かれていない場合,経験患者数の多い臨床医には,アンダーラインを引く箇所すら見つけられません。

推奨の根拠となる参考文献が山のように掲げられていても,自分の患者には合わないということをよく経験します。用量が記載されていないガイドラインは,医師の裁量を認める一方で,現場では使い物にならないのです。

3.コウノメソッドは,漢方医学のように対症療法的な薬剤選定を行いますが,一方で患者の鑑別診断もある程度できたほうが,より改善率の高い処方を選択できるため,CTなどの画像機器なしでも大方の鑑別ができるツール(レビースコア,ピックスコアなど)を考案してきました。

現在,全国にコウノメソッド実践医(コウノメソッドに従って認知症診療を行う医師)がおり,処方について迷う症例がある場合などには,筆者が相談を受け付けていますが,改訂長谷川式スケール,ピックスコア,レビースコアの3つの得点を報告してもらうことで,患者の様子が手に取るようにわかります。

患者を実際に診なくても容易に診断ができ,処方方針を決めることができるのです。それほど充実した診断ツールであると言えます。ちなみに筆者は,実践医からメールで質問を受けたら,3時間以内に的確な処方案を回答しています。

日本医事新報社の拙著第1弾『コウノメソッドでみる認知症診療』は,筆者が久々に認知症総説としてまとめた1冊で,多くの方から支持され,「感銘を受けた」といった感想を頂くなど,ロングセラーとなりました。
おそらく読者には,行間からにじみ出る「あきらめない姿勢」「認知症は“治せる”という絶対的自信」を感じとって頂けたのだと思います。

第2弾『コウノメソッドでみる認知症処方セレクション』は,認知症が改善するはずがないと考える医師に対して,挑戦するような気持ちで執筆したものです。そして,そこに示す改善時の処方はあくまでも具体的です。
見落としてほしくないことは,前医の処方が問題となっていることが多いという現実です。

第3弾となる本書は,これまでに主にコウノメソッド実践医から受けた実際の質問をベースにして筆者が答える形式で,筆者がどのような思考回路のもとに,複雑な処方を瞬時に考え出しているのかといった処方理論などを隠さずにすべて公表しようとするものです。

筆者の31年間にわたる認知症診療の経験を,認知症急増の危機的時代において,短時間で読者に伝授しなければならないという使命感で本書執筆に取り組みました。Q&A形式ですから気楽にお読み頂ければと思います。