2014/11/01

認知症介護通信14/11/01

ピック病の人、逝く

Kさんはピック病の典型症例の人であった。ここ数ヶ月はすっかり元気がなくなり、いよいよ最期が近いだろうということは誰の目にも明らかであった。数週間前には離床して、介助によって僅かではあるが口から食事を摂ることができていた。全介助の状態だが、介護抵抗、暴力ありなのであるから、老衰末期ながらもはや「天晴れ」である。(力も声も弱々しくて破壊的な脅威にはならない。)

下記はKさんの周辺症状である。
理由のない突然の怒り、暴力、暴言、つば吐き、ズボンの裾をたくし上げる、他者のお膳に手を出す、採血を嫌がり暴れる、無目的に立ち上がる、異食など。

Kさんは、私が入職する以前からの利用者で、もう5年くらいは施設で暮らしているのだが、当初からピック病の周辺症状のため介護上の苦労が続いていたという。但し、Kさんをピック病だと認識できずにいた看護師や介護士にはどうすることもできずにその期間を苦労だけに費やした。陽性症状の激しい周辺症状に対しては色々と薬の調整をしてきた経緯があるのだが、上手くいかずにいたという。

私はKさんをピック病だと見抜き、施設嘱託医にウィンタミン(朝:4mg、夕:6mg)を処方していただくように上申した。本来ならば、こういうことは看護師のすることであるが、「Kさんはピック病です。ピック病にはウィンタミンが効きます」などと私が言ったところで、理解されるはずがない。
だから、嘱託医に直接上申したのである。本当ならば、ウィンタミン、リバスタッチ、フェルガードの「総力戦」で治療を願いたいところではあるが、それは実現性の上でハードルが高すぎるから最低限のことしか望んでいなかったので、ウィンタミンだけをお願いしたのである。

その後暫く様子をみていると、ウィンタミンではなくグラマリールが処方されたのだが効果は得られなかった。続いて、レボトミンが処方された。レボトミン(レボメプロマンジ)はウィンタミン(クロルプロマジン)と同様、統合失調症の治療に使われる基本的な薬である。
レボトミンでも効果は見られなかったので、ウィンタミンを再度お願いしたところ、ようやく処方された。朝、12.5mgのコントミンが1錠である(ウィンタミンもコントミンも同じ、一般名がクロルプロマジン)。院内薬局に半分割りを依頼したら割れない、またウィンタミン細粒は置いていないという。

それでもまあ良くやったとばかり、Kさんの様子を観察していると明らかに穏やかになってきたのが分かる。陽気な顔で童謡を歌ったり、声かけに丁寧に応じたりしているのである。「コウノメソッド効果あり!」と実感した瞬間である。

ところが、数日経つとたまに易怒性を生じる時があり、増量の必要すなわち「施設天秤療法」の必要を感じたので、様子を観ながら75mg/日までの調整を看護師に指示するようにお願いした。残念ながら、この天秤療法は実現しないまま介護抵抗や暴力が続くようになってしまった。結果、暴力と介助抵抗を我慢しながらの食事などのお世話をする日が続いたことは言うまでもない。

医療従事者ではない者が薬の処方に口出しすることの限界を感じた事例である。しかし、である。緩下剤の調整ならば自分達で躊躇なく行うのに、向精神薬の微量な調整は決して行わない消極的態度の看護師は如何なものかと思う。ウィンタミンで効果が出ていることを見極め、看護師が増量を上申するのが本来の筋である。

Kさんはいよいよ口からの食事摂取ができなくなり、昏睡状態となってしまった。もはや暴力もなくなり、「平穏死」を待つだけとなったのだが、家族に看取られながら97歳の人生をまっとうされた。
私が最期にお世話させていただいたのはその数週間前のことである。その時、「お世話になります」、「ありがとうございます」などと弱々しい声で言っていた。

ところで、家庭の事情からか、近年は施設で他界すると一旦は家に帰ってから斎場にではなく、施設から家に帰ることなく斎場に直接搬送されることも珍しくはない。幸い、Kさんは施設から一旦自宅に連れて帰ってもらえたと聞いたとき、私は少しばかり安堵した。「住み慣れた自宅でゆっくりと一晩過ごしてから旅立ってください」と。


ピック病の人、入所生活始まる

このブログの「認知症介護通信14/08/30」で書いたショートステイ利用者のTさんが、本入所として生活し続けることとなった。
今日もあるショートステイ利用者の家族(旦那と娘)が様子を見に面会に来ていた。今回は約1ヶ月間くらい宿泊しているし、前々から断続的にショートステイを利用している。実はこの利用者はピック病なのである。FTLD検査セットは0点、まだまだ許容範囲内ながらも「易怒」、職員の言うことを聞かない、人前で服を脱ぎ始める、その他にもピック病を支持する根拠はあるが省略する。この人に初めて会った時から、私はピック病だろうと思っていた。ある日、サービス利用受入時に交付された資料を見ると、「アルツハイマー型認知症、アリセプト」と記されており、お決まりの誤診・不適切処方コースであることが分かった。これでは現在の治療を止めて適切な治療に切り替えない限り家に帰る、つまり在宅生活の再開は無理だ。

状況は更に深刻で、私が「この人はピック病です」と言ったところで、まともに話しを聞いてくれないことにあり、「あなたは医者じゃない!」ということで、問題解決の糸口にさえたどり着けないことにある。これはまさに、「自分の考えに凝り固まって、なにか意地になっている」の状況である。
これと同じ事例で、Mさんがショートステイを利用していたことがある。ADLがしっかりしていて自由に動き回れる上に異食があるから、目が離せない。やはり、ピック病なのにアリセプトが処方されていたから周辺症状が増悪して、在宅不可能になってしまった。Mさんは受け入れ施設が決まる間での間、「つなぎ」として当施設のショートステイを利用していたのである。

過日、施設待ちの順番がMさんにまわってきたのだが、「受け入れ困難」ということで入所をお断りしたと聞いている。合計数ヶ月間のショートステイ利用中に3回の事故報告書を書く経緯があったからだ。最近はショートステイの利用がなくなったMさんであるが、今は何処の施設に居るのか分からない。

入所が受け入れられたTさんと、受け入れられなかったMさんの差がどこにあるのか? Tさんは車椅子に座っている(本当は座らされているだけなのかもしれない)が、Mさんは自由に歩き回るだけのADLがある。だから、Tさんは入所できて、Mさんの入所は介護負担を著しく増大させるという理由で「たらいまわし」になったのである。

ピック病の施設入所者は他に何人もいるのだが、これを以て「ウチの施設は介護力が高い」などとは思わない。認知症の誤った診断を見抜いて指摘し、適切な処方を要求する。そういうシステムを備えた施設でない限り、認知症患者/利用者にも施設職員/スタッフにもゆとりある明日はない。 


アリセプトの情報サイト

アリセプトに関する情報が掲載されている。患者と介護現場に与える副作用のことはさておき、製薬会社のHPであることに十分留意しつつ読んでみると色々と情報を得ることができる。

アリセプトはADの認知機能障害の進行抑制に対する有効性が証明されたAChE阻害剤であり、DLBの病態や臨床研究結果も考慮すると、DLBに対しても有効性が十分期待できると考えられました。そこでDLBを対象とした臨床開発を開始し、2014年9月に「レビー小体型認知症」に関する効能・効果の追加承認を取得いたしました。

規定された用法用量に縛られることなく、認知症患者の症状に適した処方がなされれば悪くはない薬なのであろうが、介護現場で実際にみる患者/利用者、アリセプト服用のため経口摂取できなくなり経鼻経管栄養の末に亡くなった親戚のことを思うとやりきれない。

このアリセプトのサイト、「産・学・医」の巨大利権複合体という奥の深いウラ事情を念頭に読んでみると、とても勉強になる。「世界の認知症に立ち向かう」 ・・・・・ 真の意味でそのようにあっていただきたいものである。