2014/09/25

医者は認知症を治せる

医者は認知症を治せる

遅ればせながら、河野先生の最新著書である 「医者は認知症を「治せる」」(廣済堂出版)を拝読させていただいた。第一版・第一刷が2014年8月18日、第二刷が同年9月25日であるから、出版社の予想以上に市場の反応は良いのであろう。近所の大型書店で20冊ほど積み上げられていたので探すのに時間はかからなかった。

この本のテーマはタイトルのとおり、「医者は認知症を治せる」である。実にストレートな表現である。
「認知症は治る」ではなく、「認知症は治せる」と表現しているところが実に含蓄があって、認知症を取り巻く様々な現状を奥深く、且つ根深く表しているとも思えるのである。
また、このストレートなタイトルは認知症治療の先駆者が送る、認知症を診ようとする医師へのメッセージであり、認知症の治療を受ける患者・家族へのメッセージであるとも解釈できる。


この本はある意味、認知症治療30年に亘る河野先生の集大成を一般の人に分かり易く書かれたものであるが、コウノメソッドを著した既存の本の「序文」でもあると例えてもよいかもしれない。序文相当のことで1冊の本になってしまうのであるから、認知症医療は、実に奥深くて根深い。
ここで、「奥深く」、「根深い」と同じような意味の言葉を並べたのには意味がある。認知症医療の現状を理解するには、単に最新の有効な治療方法を知るだけではなく、治療の中核をなす薬とこれを取り巻く社会構造にまで立ち入らねばならないからである。

新書版という手軽さ(サイズと価格)から、認知症と関わりのない読書家がたまたま何かのきっかけで手にして読んだとしたら、この本に書かれていることは信じられないことかもしれない。何しろ、長年に亘って浸透した「認知症は治らない」という先入観や思い込みが根底に存在するから、懐疑心が湧き起こるだけかもしれない。

しかし、この本のみならず、河野先生が過去に著された専門書籍や毎週更新されるDr.コウノの認知症ブログを裏付けデータとして良く読んでみると懐疑心は払拭されるのではなかろうか。裏付けデータは他にもある。ドクターイワタの認知症ブログ鹿児島認知症ブログもまた同様である。
また、本文中に記された「5章 私は反骨医として闘う-認知症800万人時代を救う革命」中の「「患者のための」新たな学会を立ち上げる!」に紹介されている 認知症治療研究会の趣意書をご覧になれば、信憑性は更に深まるだろうと思う。

奥深いとは認知症治療のテクニカルなことである。一般に、「認知症=アルツハイマー型認知症=アリセプト」などという安直な診断と処方がまかり通っていることが指摘される。だから、前医の処方の誤りを正すことから治療が始まるなどという現象が生じているという。
以下(本書より引用、青色字)のように、認知症にはいくつものタイプがあって、それぞれのタイプ・症状に合った処方が必要なのである。
①アルツハイマー型認知症 認知症の中では最も多く、全体の60%程度を占めていると一般的にはいわれています(私は45%くらいだと思っていますが)。「アミロイドβ」という特殊なたんぱく質が脳に蓄積されて、脳の変性と萎縮が起こり、発病します。なお、アルツハイマーと診断されても、レビーに移っていくことがあります。レビーに変化したときは直ちに薬を変更したり、量を減らしたりしなくてはいけません。
レビー小体型認知症 アルツハイマー型認知症に次いで多く見られます。レビー小体という特殊な物質が大脳皮質全体に出現し、それが増えることで起こります。このレビー小体が脳幹の中のみに出現するのがパーキンソン病で、レビーとパーキンソン病は似たような症状を示すことが少なくありません。薬剤過敏性(薬が効きすぎる性質)があるので、様子によっては薬を減らしたり変えたりすることが肝心です。実はこれまでかなりのレビーが、アルツハイマーやパーキンソン病、うつ病と間違えられて、薬を出されてきました。それで多くの患者さんが悪化することがあるのです。
 脳血管性認知症 脳梗塞や脳出血といった脳血管障害によって起こる認知症です。認知症の原因となりやすいのは脳出血よりも脳梗塞で、小さな梗塞が多発する多発性脳梗塞から発病するケースが多くを占めます。
ピック病(前頭側頭型認知症)・意味性認知症 前頭葉や側頭葉に病変が起こる「前頭側頭葉変性症(FTLD)」という大きなグループの中に含まれる認知症です。どちらも、態度が横柄になる、傲慢になるといった症状や言語理解の低下がみられます。万引きを繰り返す高齢者増えていることが話題になりましたが、このピック病かもしれません。また、記憶力は比較的保たれるため、精神病と間違えられることが少なくありません。
混合型認知症 ①のアルツハイマー型と③の脳血管性認知症が合併したタイプです。画像診断では脳血管性認知症的で、症状はアルツハイマー的といった特徴が多く見られます。経験の浅い医師は、画像診断から、脳血管性認知症と誤診することがあります。すると、脳血管性認知症の薬だけ出されるため、進行が早まってしまうことがあるのです。また、最初にアルツハイマーと診断されても、途中から脳血管性認知症の症状が出てきたら、この混合型を疑いましょう。
その他(ミックス型) 脳血管性認知症は他の認知症との併発がよくあります。最も多いのがアルツハイマーと合併した⑤の混合型認知症ですが、レビーやピックとの合併もあり、私はレビーとの合併を「レビーミックス」、ピックとの合併を「ピックミックス」と称しています。またレビーとピックが合併したタイプもあり、「レビー・ピック・コンプレックス(LPC)」と呼びます。私はこれを新しいタイプの認知症として、2011年に日本認知症学会で発表しました。
認知症の治療に有効なのはなにも抗認知症治療薬だけではなく、古くから使われてきた向精神薬、あるいは米ぬか由来のサプリメントにも有効性があるということが多くの治療実績から示されている。

一方、根深いとは認知症医療の抱える諸問題のことである。「認知症は治らない」という従来からの既成概念が邪魔をしているということだけではなく、製薬会社ー学会ー大学という利権構造が存在するが故に、本来あるべき治療ができないようになっているのである。
製薬会社の用法用量、すなわち「増量規定」を厳格に守りすぎて、副作用があろうとも処方量を変えようとしない。
 学会&論文至上主義に陥って、患者自身を診る姿勢に欠けるため柔軟な処方変更ができない。
 認知症の知識が足りないために的確な診断と処方ができない。
論文の結びよろしく、「一定の効果を確認したが、更なる研究が必要と思われる」などと悠長なことを言っておられる現状ではない。認知症患者460万人、予備軍と言われるMCI(軽度認知障害)の人が400万人と推計されているのであるから、超高齢化社会にある我が国の高齢者介護の将来は非常に厳しい。医療経済の面でもまた然りである。

認知症治療の手法(コウノメソッド)は既に多くの治療実績があるのだから、あとは普及に総力をあげれば良いのである。ところが、いまだに厚生労働省は、「認知症の予防と治療の研究を進めるべく検討する」などと言っているのだから、どこかしら空虚さと腹立たしさを感じる。
既に在る「コウノメソッド」という体系化(システム化)された治療方法をキーワードに、河野医師をキーパーソンに、認知症爆発時代に対応する実効性のある戦略を組み立てる方が早くて手堅い選択であると思うのは私だけであろうか?