2014/08/09

現場で観るピック病

現場で観るピック病「4」

今回もピック病の話題である。ピックスコアは経験学的な「診断基準」で、前頭側頭葉変性症(FTLD)の鑑別に用いるのだが、このピックスコア4点以上に93.4%が入るという。だから、このピックスコアは臨床のみならず、介護の現場でも使いたい。
認知症の中で一番手を焼くのがピック病であるが、「急に不機嫌になったから、トイレに連れて行く」という程度にしかその対処方法が理解されていないし、それでたまたま排泄を済ませてしまえば「これで良し」とする。そういう低いレベルの介護現場であり続ける限り、低いレベルの認知症医療もまた改善されないのである。こういうツールを活用してピック病を見抜き、適切な治療に繋げたい。


・診察拒否傾向、不機嫌、採血を異常に怖がる
トイレに行くのも、食事を始めるのも、レクレーションに参加するのもみな拒否する傾向にある。ATDやDBLでも拒否することはあるが、拒否や抵抗の度合い・強度がより強いのである。
ATDに比べると愛想がなく、ぶっきらぼうで、不機嫌な印象である。
施設で採血する様子を見る機会は少ないだろうが、たまには採血することもあるので注意して観察しておきたい。日常的なこととして爪切りがあるが、ピック病の人はこの爪切りを異常に怖がり激しく抵抗することもある。 

・医師の前で腕や足を組む、二度童
施設利用者が足を組む様子をあまり見たことがない。もしかしたら、この年齢層(平均86才)の時代背景から足を組むという生活習慣がないのかもしれないし、女性が圧倒的に多いのも理由なのかもしれない。そういう中にあって、足を組む人をよく観察するとピック病である。自分が介助されている状況をわきまえずに、腕を組む・足を組むとみなしてよいだろう。排泄介助の際、便器の前だというのに車椅子に座り足を組んだままという行為は少しばかりムッとくる。
二度童(わらべ)。状況に鑑みて大袈裟過ぎるくらいに笑ったり、子どものように泣き出したりする。私は突然に「じゃんけん、ポン!」と言って、利用者にじゃんけんで負荷をかけることがある。それに応えてじゃんけんして喜ぶのはATDではなく、ピック病に多い印象である。

・なかなか座らない、立ち上がる、座る場所が違う、勝手に出て行く
目的もなく立ったままでいられたり、立ち上がったりされると転倒リスクが増大するし、見守りの負担がかかるから、「どうぞ、おかけください」とか「どうぞ、お座りください」と言って座るように声かけするのだが、こちらの言うことを聞かない人は本当に聞かない。
こちらの言っている意味が理解できないのかと思って、こちらが先に座って見せて着席を促しても座らないのである。このことは、ピック病の人ほど強い傾向にある。ピュアなアルツハイマー型認知症(ATD)であれば、適当に言いくるめて座らせることはたやすいが、ピック病の人は難しい。余談になるが、私は敬語で「どうぞ、おかけください」と言う習慣があるのだが、「おかけください」では語義が通じないのかと思ったことがある。だから、「お座りください」と言うのだが、座らない時はなかなか座らないのである。
勝手に出て行くというのもある。周囲への気遣いがまったくなく、「我、関せず」といったふうである。その場から離れるような状況ではないにも関わらず、「何処かに行きたいから行く」といった感じである。施設ではADLの理由で車椅子利用者がほとんどである。介助なしでは移動できない人は、例えばレクレーションの最中に「我関せず」といったふうで、まったく参加しない。自力歩行ができれば、勝手にその場から出て行くであろう。

・FTLD検査セット ①利き手はどちら ②右手で左肩を叩け ③「サルも木から落ちる」の意味 ④「弘法も筆の」何?
このFTLD検査セットはよく使う。①~④まで答えられない人は本当にまるで得点が取れないのである。特に①の「利き手はどちら」で躓くことが多い。ちょっとした空き時間に、雑談から始めてクイズをやるかのように質問するのであるが、単に答えられるか答えられないかだけではなく、答えるときの態度や発話の内容も重視している。質問に対してそっけなく「分からん!」と言うか、思いつきで見当違いのことを言うかで「○○○っぽさ」を掴むのである。経験を重ねるうちに、ピックもATDも、DLBの鑑別もできるようになるものである。

・知能検査中に「どういう意味?」と聞く、相手の言葉をオウム返しする
たまに聞き返されることもあるが、大抵は黙り込まれてしまう。言葉のオウム返しには遭遇したことがない。若ければ聞き返すだけの能力があるかもしれないが、80~90才代の人ばかりを相手にしているからなのかもしれない。

・勝手にカルテを触る、口唇傾向(吸飲、口鳴らし、鼻歌)
目の前のテーブル上にあるモノには何にでも手を出すのである。自力で湯飲みを持ってお茶が飲めなくても、目の前の湯飲みに手を出す。おしぼり、タオル、お膳の器でも同様である。口唇傾向のうち吸飲は見かけることがある。

・ADLが良いのに改訂長谷川式スケール7点以下
年に一度、「改訂長谷川式スケール」を実施しているが、平均年齢86歳、要介護度4の施設では大半が一桁の得点である。当然、ADLも良くない。それでも、「ピックぽいね」という雰囲気や空気は感じ取ることができるのである。

・盗癖、盗食、無銭飲食(これら1回既往でも陽性)
施設の備品(タオル、おしぼりなど)を盗ることは見かける。盗食は油断していると頻繁に生じることである。だから、食事で配膳する時にはピック病の利用者に先に配膳してから、隣席の利用者に配膳するようにしている。順番を間違うと盗食が発生する。お膳の内の一品ということもあるし、お膳丸ごとという場合もある。

・病的甘いもの好き、過食、異食、掻き込み、性的亢進
異食は油断すればすぐに発生する状況である。その他は食事の管理がなされているから見ることはない。掻き込みは、血管性認知症の利用者で見ることがある。性的亢進は見たことがないが、聞いた話しでは、女性職員の身体を触る男性利用者がいる。冗談で「今夜、一緒に寝ましょう」と言って笑わせることをするが、「きゃははぁ~」と反応する程度のことしか見受けられない。

・スイッチが入ったように怒る、急にケロッとする
この症状はピック病を知らない人にとっては不可解であり、もしかしたら脅威でもあろう。特別なにか怒らせるようなことをした訳でもないのに、突然怒り出すからである。こういう場合、きまって「トイレに行きたいのだろう」と思ってトイレに連れて行くことが多い。これが誤りだとは言い切れないが、あまりに稚拙な発想と対処である。ピックセットで治療することが先決である。こういうことが分かっていなければ、1年後も5年後も同じことをやっているだろうことは火を見るより明らかであり、介護負担はさらに憎悪しているかもしれない。

・シャドーイング(家族の後ろをついてくる)、一人にされると逆上、人混みで興奮 
これらは不思議と見たことがない。

・大脳萎縮度に明らかな左右差がある(側頭葉や海馬)、ナイフの刃様萎縮、強い前頭葉萎縮
こればかりは介護現場ではどうしようもない。けれど、河野先生、岩田先生、平山先生の各ブログに掲載されるCT画像は必ず真剣に観て、自分で鑑別できるように練習(?)している。自分がもし診察の場に居て、医師からCT画像の説明を受けることになった場合に備えてのことである。但し、コウノメソッド実践医の元に駆け込むから、心配いらないのだけれど。


以上に記したことは、「ピック病の症状と治療」に詳しく書かれていることだがこれを自分の経験を通じて介護現場に当てはめてみたことである。
一般的に言って、認知症に関する書籍というのは、医学なら医学一辺倒であり、介護なら介護一辺倒である。だから、介護の立場で書かれた本では、「薬物療法については他書に委ねる」などと書かれていることが多いようである。つまり、「薬物療法」と「非薬物療法」、医療と介護その他を融合して包括的に書かれた書籍は少ないのである。ある意味、専門領域を超えて融合・連携する極めて学際的な深いレベルにまで記述された認知症専門書が欲しいと思うのは私だけであろうか。分冊構成では介護関係者は「医療編」にまでなかなか手を出さないであろうから、コンパクトで分厚い体裁が良いかもしれない。

などと書きながら机上に「完全図解 新しい認知症ケア (医療編)」があることに気付いた。サッと一通り目を通したが、その後殆ど読み返すことがないから不思議である。
大型の本だからだろうか? 百科事典ふうだからであろうか? 活字が小さいからであろうか?






本の話しに脱線してしまったから、更に脱線する(私は脱線する話しが好きなのである)。認知症について学ぼうと目標を立てた当初、最も頻繁にくり返し読んだのが、「改訂・老年精神医学講座」(ワールドプランニング)の総論と各論である。
この2冊は、ある学会の専門医認定のための教科書だそうで、「教科書なのだから、そこに書かれていることくらいはしっかりおさえておこう」と何にも知らない私はくり返し読んだ。教科書がボロボロになるくらい読んだ。
いつのことだったか定かではないが、コウノメソッドに辿り着いた。そして現在、これらを照らし合わせてみて疑問に思う記述もあるが、この教科書に羅列された項目と内容の質実共に凌駕する、真に役立つ教科書の編纂・発行を認知症治療研究会(学会)に期待したいと痛切に思っている。
認知症医療は年々進化している。「治せる認知症」の圏内に、ひとつでも多くの「昔の治らない認知症」を網羅していって欲しい。


ところで、このブログ「認知症介護通信」で度々紹介させていただいてる、河野先生が著した「ピック病の症状と治療」の序文に以下の記述がある(P.12)
「この患者は、主治医はアルツハイマーと言っているが、ピック病ではないかしら」と気付ける職員がいたらどうでしょうか。患者は処方変更で退院できる可能性があるのです。
実際、私はショートステイ利用者3人でピック病と、不適切な処方を見抜いたのだが、何もできずに今日に至ってしまっている。これは、何も知らない職員には想像できないストレスであり、トラウマでもある。こうなってしまった一因は、岩田先生が「認知症になったら真っ先に読む本」でご指摘のように多職種連携が欠如しているからであるということを指摘しておきたい。



まったく期待せずに観た・・・ やっぱり! 

こういう認知症にまつわる「お涙ちょうだい」番組が報道され続ける限り、認知症医療はいつまで経っても進歩しないし、認知症、とりわけピック病の患者も家庭介護者も施設介護者も救われないわぁ~!

日本テレビ系列「あのニュースで得する人・損する人」
8月7日放映 認知症スペシャル第2弾
アルツハイマー型の認知症は、認知症全体の6割しか満たない。記憶ではなく感情のコントロールできなくなり、最悪の場合犯罪を犯してしまう可能性もある「ピック病」▽ピック病を患い、笑顔を失ってしまった妻と、彼女を支え続ける夫。病気と闘うご夫婦に密着!40~50代という若い世代が危険だというピック病の早期発見の方法とは!? (同番組紹介より転記)

番組の前半ではピック病の症状の説明は良くできていたが、後半は「治療方法なし」ということで「介護現場」に時間が割かれてしまっていた。ディレクターも勉強して、こういう番組作りの功罪に気付いて欲しいものである。「認知症は介護で解決するもの」という誤った認識だけを潜在意識の中に埋め込んでしまうだけなのである。まあ、ピック病をメインテーマに紹介してくれただけで良しとするか・・・



頑張れ!ケアマネージャー

ケアマネジャーに対する医者の横暴を許すな (岩田先生のブログより一部転記)
複数のケアマネージャーから聞いた情報である。近隣の複数の医師が居宅介護事業所に電話をして所属するケアマネージャーが認知症専門医を紹介したことに文句を言っているというのである。ケアマネージャーに「認知症に気づいてくれて有り難う」というのが筋なのに「主治医を差し置いて患者を紹介するのは如何なものか」と言っているいうのである。
私にも同様の経験がある。ショートステイ利用者で、明らかなピック病であるにも関わらずアルツハイマー型認知症としてアリセプトが処方されていた。従って、周辺症状が酷くて介護負担は必要以上に憎悪していた。介護拒否、異食などがあり四六時中目が離せないのである。 
その滞在中、異食事故があり2件の事故報告書が上がったのだが、「見守り不足」などと相変わらず自虐的な原因分析を書いているのだからやりきれない。診断と処方が誤りなのであるから、それを正すことが先決である。その上で、介護の介護の課題を分析すべきである。まさに「第一選択肢は薬物療法」であり、「第二選択肢が非薬物療法」なのである。
業を煮やした私は、直属の上司の前で「診断が誤りなんです。この人はピック病ですから、処方もまずいですね」とぼやいたら、施設長に呼ばれて「医師の診断に口出ししてはいけません・・・」と諭されたのである。2人とも尊敬する上司であるだけに残念でならない。
岩田先生の事例は、ケアマネージャの適切な判断と対応として敬服させられる。自分が正しいと思うことを行動に移しただけであり、天晴れである。逆に文句を言ってきた医師は「お客をとられた」とか、「自分の治療方法に間違いはない」と自信を持っておられるのだろうか? いずれにしても、認知症を治せる専門医の元に連れて行かれた認知症患者が羨ましいと思う。

医療というのは少しばかり特殊性と特権のあるサービス業なのかな? はっきり言って、治しても治さなくても診療報酬が頂けるのである。出来高払いなのだから、患者が逃げ出さない限り下手でも治療を続ければ収入が得られるのである。民間の一般企業なら絶対にこういう訳には行かないし、満足のいくサービスが提供されないような会社なり、お店からは客が逃げていく。当然のことである。



今週の一曲

春日八郎と言えば、「赤いランプの終列車」(1952年、昭和27年)か「お富さん」(1954年、昭和29年)であるが、「長崎の女」(1963年、昭和38年)を是非聴かせて歌って欲しい。これはただの好みである。長崎(市)と言えば、「坂の町」である。長崎港を中心にみると三方を山に囲まれたすり鉢状の地形をしている。 
傾斜地という地形の関係から、1階の玄関から建物に入ったつもりでいたら、実は2階であったりもする。やたらと階段も多いし、クルマの離合が難しい細く曲がりくねった道も多い。だから、デイサービスで送迎するスタッフは大変だろうと思う。