2014/08/02

現場で観るピック病

現場で観るピック病「3」

気の向くままに書いていたら、ピック病の連載となってきた。私はマスコミや世間が大々的に注目するアルツハイマー型認知症(ATD)にはあまり興味がない。抗認知症薬が適切に処方されていれば、ATDの人は悪さをするでもなく、そこそこ介助してあげれば普通に暮らせるからである。 
実は私はピック病が大嫌いなのである。その理由は以下の通りである。
  ■周囲にかける迷惑が半端ではない
  ■治しやすいにも関わらず放置されている
  ■行動(症状)が家畜(牛)に似ている

■周囲にかける迷惑が半端ではない
目を離した隙に何をしでかすか分からないのがピック病である。これはATDの比ではない。現在私がお世話しているピック病の利用者は皆車椅子に乗っているから好き勝手に移動することはない。ならば安心かというとそうでもない。目の前にある物には何でも手を出す(使用行動)、こちらの言うことをまったくと言っていいほど聞かない、大声で奇声を発する、介護拒否と暴力などとにかく目が離せず手が掛かるのである。但し、ピック病ならば皆手が掛かるのかと言えば、実はそうではなくおとなしいタイプの人もいるので付け加えておきたい。


■治しやすいにも関わらず放置されている
ピック病に最低でもウィンタミンというのは、河野先生はじめ実践医の先生方がその効果を実証しておられる。にもかかわらず、ウィンタミンの処方が一般には十分知られていない。ウィンタミンの一般名はクロルプロマジン(chlorpromazine)である。この chlorpromazineと、FTLD、FTD、Pick's disease などいろいろ組み合わせたキーワードで海外のサイトを検索してみたことがあるが、クロルプロマジンの有効性について1件も見つけることができなかった。どこも、「治療方法なし」としか記されていないのであるから、もしかしたら河野先生の発見は世界初かもしれない。

■行動(症状)が家畜(牛)に似ている
こう表現しては失礼とは思うが、残念かつ気の毒なことに、こういう形容が当てはまるのである。食事介助をしてみると分かるが、介助で食べ物を口に入れようとすると、舌を出す様は牛に似ているのである。私は農家・酪農家の生まれで、家では牛を十数頭飼育していたから給餌のことは知っている。その様子とダブって見えるのであるが、何とも哀れで悲しい症状である。
食事中の様子というのは実に悲しいものがある。ご飯やおかずをごちゃ混ぜにする、食べ物を床に捨てる、食べかけを隣人にあげる、手掴みで食べる、食べ物の入った器を重ね合わせるなど、ピック病、あるいはピック症状を知らない人が見たら驚くであろう。


以上に述べた理由でピック病を嫌うのであるが、その治療においては大いに期待している。一番治しやすいタイプの認知症だからである。
さて、今回は「ピック病の症状と治療」(フジメディカル出版)を元に介護現場での状況を記してみることにする。

落ち着きが無く、なかなか座らない
介護現場で困るのは、落ち着きがない、なかなか座ってくれない、じっとしていない利用者である。目を離した隙に何をしでかすか分からないからであり、他の利用者への迷惑行為、異食、転倒・転落に繋がるからである。
「どうぞ、お座りください」と声をかけても座らない人は座らないのである。
また、目的もなく急に立ち上がるのも困るのである。転倒のリスクが増大するからである。

腕組み、足組み
これは迷惑ではないが、場にそぐわない状況でこれらをされるとイヤな気分になる。例えば、トイレに連れて行き、便器の前だというのに足を組んだままじっとしている。食事の配膳が整っているにも関わらず、腕を組んだままじっとしているなど。

ズボンのたくし上げ
迷惑ではないが、ズボンをたくし上げることがある。見ていて、まったくの意味不明である。 

指しゃぶり
眠っている時以外は、常に指をしゃぶり続けるのである。手を清潔に保ってあげていれば指しゃぶりくらいは放置できるのだが、他の利用者などの傍目を思うと気持ちの良い行為ではない。SD(意味性認知症)の利用者がピック化して指しゃぶりを始めた事例がある。また、慢性硬膜下血腫が進行したせいであろうと推定されるが、指しゃぶりが常同行動となってしまった事例がある。
アルツハイマー型認知症(ATD)では、末期になってもほとんどこういう行為はないとされるが、確かにATD末期の利用者は指しゃぶりをしない。

口唇傾向
口元に何かを持って行くと、口をすぼめたり、吸ったりする。食事中にこれをされると、やたらと食事介助の手間と時間がかかる。スプーンで食べものを口元まで持って行くと、急に口をすぼめてしまい食べないのである。摂食拒否かとも思えるが、そういう訳でもない。何とか口の中に食べ物が入ると、しっかりと咀嚼して飲み込むのである。

歯磨きしない
施設では毎食後、歯磨き(口腔ケア)するようになっているが、自発的には絶対にやらない。従って、介助することになるのだが、それを頑なに拒否するのである。その拒否があまりに激しくて歯ブラシをへし折られた事例がある。あまりにも酷い場合は2人がかりで口腔ケアを行うこともある。ATDではこういう事例はない。

食行動の異常(異食、拒食、過食、掻き込み)
異食の事例は多々あるが、全員ピック病である。ATD、DLBでは見たことがない。ただ、1例のみアリセプトの過剰投与が原因で異食したADTは見たことがある。
ファスナーを引きちぎってスルメのように噛んでいる、おしぼりを食べる、カーテンの布地から糸を引き出して食べる、膝掛けの装飾の玉(パチンコ玉程度の大きさ)を引きちぎって食べる、という事例がある。だから、仮におとなしいタイプであっても目が離せないのである。不思議なことに弄便して、その便を食べるというようなことは見たことがない。弄便も便を食べるのも、圧倒的に脳血管性認知症の人である。

拒食もしばしば見かける。食事介助中、口元まで食べ物を運ぶと、顔を横にそむけるのである。自力で食事ができる場合、なかなか箸を付けない、食べ物を遊び道具のように弄ぶことがある。

過食は見たことがない。施設では提供される食事はカロリーや栄養が管理されているから必要以上の量は出てこないし、ご飯の「おかわり」もないからだ。 

掻き込みは、何かに急かされるように食べるような行為を示すのだが、あまり見たことがない。ただ、一品ずつ食べる行為はよく目にする。私は、前頭葉機能の低下を知る「指標」のひとつと思って、食事中は意識して「一品ずつ食べる」という行為を観ている。

ふざけ症(もリア)
幼子のようにはしゃぎ、踊り、キャッキャと笑うという事例がある。「箸が転がっても笑う」という例えががあるが、まさにそういう感じである。 

人前で裸になる
まさにピック病である。ピック病以外の利用者で人前で衣服を脱ぎ始め裸になる人を見たことがない。但し、本当に裸になる以前に職員が気付いて、衣服を脱ぐのを制止するのは言うまでもない。 
ある日、最寄りの駅でうずくまっている老婆が警察に保護され、私の勤務する施設に緊急入所(ショートステイ)することになった。一見して「ヘンな感じ」と思っていたが、入浴拒否にはじまり、急に人前で衣服を脱ぎ始めたので「ピックだ」と分かった。 その老婆は独居生活者で、ある精神科病院で統合失調症と診断されており、現在は未治療であることが分かった(私は呆れて、もう笑うしかなかった)。

びっくり眼(まなこ)
何か意表を突くできごとにびっくりして、「あっ!」と驚くため五郎(古いギャグである)のように目を見開くように大きな目をしている。ピック病の利用者を見ていると、確かにそういう印象である。勿論例外もあるが、私は不自然さを感じる目の開き具合をピック病鑑別の手段にしている。


以上見てきたように、ピック病の症状は多彩である。上に挙げた症状は著しく介護で手を焼くような易怒・暴言・暴力とは異なるから、こういうことを知らないとピック病を見過ごしてしまうであろうし、医療機関を受診すればATDと誤診されるであろう。
私は、前頭側頭型認知症(FTD)の診断基準を何度も読んでみたが、そこから実像をイメージすることがなかなかできなかった。
 
「レビー小体型認知症(DLB)が増えている」と言われているが、DLBの診断基準が整備され知名度も上がってきたこと、診断できる医師が増えたことなどが理由だろうと思う。 
一方、ピック病はまだまだであるというのが介護現場から感じる実態である。このことは、ショートステイ利用者や施設入所者の治療実態を観察してみても明らかである。

幸いにして、ピック病はウィンタミン・リバスタッチ・フェルガードの組み合わせ、あるいはウィンタミン単剤かフェルガードの服用で、対症療法ながら治せることが分かっているのだから、この治療法を利用しない手はない。
このことは、岩田先生の「ドクターイワタの認知症ブログ」にある症例報告をご覧になれば分かる。



 一生勉強、生涯勉強

製品の特長を熟知することは当然のことながら、製品をご利用いただくお客様の立場に立った姿勢というのはとても重要であると思います。真摯にそのことを追求すると、やはり、「お客様の立場」=「認知症と介護」にまつわる広範な情報収集は欠かせないし、そのための自己学習も大切だと思います。 だから、沢山学んでいただきたい。一生勉強、生涯勉強なのです。 


学んだことをお客様に何らかのカタチで還元できるというのは実に幸せなことなのです。ある意味、幸せになるレベルに達するには、今説明しようとすることの少なくとも10倍の知識(情報量)が必要なのです。ひとつのことを話すバックに10の情報量を持っていれば、どのような話しの展開にも自信を持って対応できるのです。これは私が電話サポートを担当していた経験則です。 現在は介護の仕事を生業にしていますが、同じです。認知症の殆どのタイプ別の接し方・対応方法を知っているから、どんな難事例にも平気で対応できます(たぶん)。
コウノメソッドで認知症のことを学んだから、認知症の鑑別は85%位の精度でやってしまいます。たとえ、医師がATDだと診断していても、私はピックだと自信を持って鑑別します(自信過剰でなければいいのですが)。そうでなければ、このブログは書けないわぁ~。

だから、社員の皆様がんばってくださいね。株式会社グロービアのホームページ社員メッセージを拝見して注文の電話の向こうを少しだけ拝見できましたので、社員の皆様に応援のメッセージを送ります。 


いつもと違う痛みに気付いて

隣に一人暮らしの母である。幸いにして、認知症を発症していない後期高齢者である。
いつものようにある朝、様子を見に訪ねると、「お腹が痛くて眠れなかった」と言って床にうずくまっている。「いつもと違う痛みか、これまでに経験のない腹痛か?」と尋ねたら、「初めての経験だ」と言う。
これは何かあるねと思ったので、近くの総合病院に連れて行った。診断は急性腎不全であり、数日前から服用していた帯状疱疹の薬が原因ということで緊急入院となった。「いつもと違う痛み」ということが受診の判断となり、事なきを得て良かった。高齢者には、通常成人と同じ量の薬を与えてはいけないのであるということもよく分かった。しかし、これは薬を処方した医師が当然のこととしてサジ加減すべきことである。
   
ついでにもうひとつ良いことがあった。診察を待つ間、本を読んでいたのだが、後方で聞き覚えのある声がする。私は振り向くこともなく、「あっ、福島先生だ!」と思った。
さりげなく後ろを振り向くと、そこに「神の手を持つ脳神経外科医」と称される福島孝徳先生が立っておられた。確かに後光が差しており、圧倒されるようなオーラを発していた。 背が高くて、背筋がピンとした人である。
周囲には患者家族と数人の関係者が居たのだが、近づいてみると気軽に話しかけて下さり、私が手にしていた本にサインをして下さった。
その本は、「認知症の行動と心理症状 BPSD」(アルタ出版)である。「専門書だね。認知症は難しいからねぇ」と福島先生が仰る。「しっかり勉強しなさい」と励まして下さった。


私は、「夢とは相当に努力を重ねた結果、得られるかもしれないこと」、「希望とはただ願い、それなりにやっていれば得られるかもしれないこと」と理解している。私の住む街に、福島先生が手術のため来られる病院が移転して来た日から、いつかはお会いできるだろうと漠然と思っていたのだが、実現してしまった。希望は叶うのだ。


キリ番、頂きました

私の稚拙なこのブログで折に触れて、勝手に参照・リンクさせて頂いている「鹿児島認知症ブログ」の平山先生とは面識がない。厚かましくも私がメールを差し上げたことで、ブログを通じて出逢うことができた。
左図のようなカウンタの連番や同じ数字の並んだ状態を「キリ番」と言うらしい。先週、記念すべき、「12345」を獲得したのでここに掲載させていただいた。
先生からは、「楽しみながらブログ更新しましょう」とお言葉を頂戴したが、実は骨の折れる作業である。けれど、こういう地道なことで、もしかしたら認知症患者の家族がコウノメソッドを知り、実践医の治療に繋がることができたとしたら、それで本望なのである。


この人に聴く 長尾和宏先生

長尾先生(長尾クリニック院長)が認知症治療研究会の世話人として入会された。「医者任せにせず、患者も勉強して遠慮せず希望を言って欲しい」と言う。確かにその通りだと思う。医者と患者は対等だと言われて久しいが、現実的に対等までいかないにしても、治療方針に対して何か希望を言うためには患者も情報武装しておかなければならないと思う。