2014/06/12

わざと間違えてみた

Nさんは片麻痺のある血管性認知症の人である。 幾分昼夜逆転しているようで、日中はウトウトしていることが多い。 息子さんと暮らすデイサービス利用者である。
昼夜逆転しているから、デイルームに居る時はおとなしいことが多い。 但し、時々覚醒しては、「ヘルパーさぁ~ん!」と大声を出すのが困る。 同僚は、「寂しいから私達を呼ぶ。 相手にするのは程々にしておきなさい。」と忠告する。

確かにそういう理由もあるのだろうけれど、私はそういう文学的解釈には興味がないから、「血管性認知症だから、そういう症状があるのだろう」と思った。 まだ認知症については勉強を始めたばかりの頃であったから、あるがままを観察するしかなかった。 帰宅して、毎月定期購読している学会誌を読んで考察を加えるのが手一杯であった。
ただ、血管性認知症にアルツハイマー型認知症が合併しているのかどうかは気になっていた。 というのも、いくら注意しても関わり合っても、「ヘルパーさぁ~ん!」と呼ぶからである。

そんなある日のデイサービスの帰り道、山間の交差点前でわざと道に迷ったフリをしてみた。
「ねえ、Nさん。 帰り道はその交差点を曲がるの?」
と、私が訊くと、
「いや、次の交差点を左よ!」
と、はっきりと答えたのである。 

迷子や地誌的失認はアルツハイマー型認知症に見られる症状であるから、Nさんはアルツハイマー型認知症を併発してはいないと思った。

またある日の帰り、自宅前で出迎えに立つ息子さんに、Nさんは言った。 
「この人が一番良くしてくれる。 あんたからもお礼を言いなさい」、と。
私は、ある意味、介護の恐ろしさを知った。 「介護職員・スタッフが利用者を観る以上に、利用者は私達を観ている」ということを。

同様のことを後にも経験することがあるが、決まって血管性認知症の人に多い。 血管性認知症の人は、礼節や人格が比較的良く保たれていると指摘されている。 人を区別して接遇してはいけないが、血管性認知症の人への言動にはより細心の注意を払わないといけない。 特に、その場凌ぎの「でまかせ発言」(良い意味でのウソつき)をしてはいけないのである。
こういうことに気遣いができない介護職員・スタッフが多いのは残念でならない。

以下のことを覚えておいて欲しい。
 ・その場取り繕いのアルツハイマー型認知症
 ・我が道を行く前頭側頭型認知症
 ・日によって調子がコロコロ変わるレビー小体型認知症
 ・いつも同じ血管性認知症