2014/06/15

「この人が一番良くしてくれる」 ・・・最上級の賛辞ではあるが

施設に入所しているMさんには、軽い脳梗塞後遺症のため左上下肢に少し麻痺があるが、軽度の血管性認知症かもしれない。 ただ、言って良いことと良くないことの思慮分別なく、思ったことを口にすることが時々ある。 少しばかり寂しがり屋なのであろう、家族があまり面会に来てくれないと愚痴をこぼすこともある。

数ヶ月ほど前から、Mさんは食欲が無くなり、食行為への関心が薄れてきたように感じるようになった。 それは徐々に進行して行ったのだが、前頭側頭型認知症(FTD)に比べると少し早い印象である。
・目の前のお膳の料理やご飯をごちゃ混ぜにする
・食べかけを同席の利用者にあげようとする
・口に入れた食べ物やお茶を吐き出す
・食器の食べ物やお茶を床に捨てる
・時々、口答えして職員を困らせる

こういう症例(前頭葉症状)は、FTDによく見られるのだが、あまりに進行が早い(階段状に進行する)のでFTDではなく脳梗塞の既往歴を勘案して、私は脳梗塞再発による前頭葉機能の低下の疑い有りとして要注意していた。

そんなある日のこと、Mさんの面会に息子夫婦が訪れた。
それまで口数の少なかったMさんは、部屋に入ってきた私を見るなり、「この人が一番良くしてくれる」と突然家族に言うのである。 私は恐縮して、愛想笑いしかできなかったが、Mさんはちゃんと観ていると感心した。 一般に呆けていても、血管性認知症の人は記憶力とか人格はきちんと保たれていることが多いのである。

「この人が一番良くしてくれる」というのは、介護職に携わる者にとっては最上級の賛辞であるかもしれないと、改めて実感した。 それから約2週間後の朝、Mさんの様子がおかしいことに職員が気付き、心配し始めた。
結局、脳梗塞の再発であった。 経口摂取不能で経鼻経管栄養となり、施設を退所することになった。 Mさんの異変に気付いておきながら、何の対応策も講じることができなかったことが悔やまれる。

「この人が一番良くしてくれる」などという賛辞はただの美辞麗句であり、この程度のことで満足していては施設利用者・患者を救えないと思った。
何かしらの異変に気付いたら、介護職者であれば看護師を通じて、あるいは看護師であれば看護師として、嘱託医に上申して医療介入してもらうシステムを構築しなければならないのである。


最近は、4大認知症のうち、神経変性性の認知症ばかりに興味が行ってしまっていて、血管性認知症に疎くなってしまった。 だから、血管性認知症―遂行機能と社会適応能力の障害(ワールドプランニング)を読み直すことにした。 この本は、2009年8月に購入して読んでいた。 読んで字面を追って理解するのと、実際に症状を観て理解するのとでは、雲泥の差があることに思い知らせれた。

河野先生は、「コウノメソッドを学べば、認知症の鑑別診断は実は医師でなくても、画像機器がなくても、85%可能である。」という。 私も早いこと、85%の領域に達したいと思う。
なお、上に紹介した本はコウノメソッドとは直接関係ない。 しかし、この本は良書であると思うので紹介方々掲載した。 アルツハイマー型認知症と対比させながら、血管性認知症を論じているから、アルツハイマー型認知症の勉強にもなる。